侍が準決勝進出に王手をかけた。第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の2次ラウンド第2戦でキューバに8-5と競り勝った。同点の8回、代打内川聖一外野手(34)の犠飛で勝ち越すと、続く2死一塁から山田哲人内野手(24)の左中間への2ランでダメ押しだ。山田は、初回にも先頭打者本塁打で先制点もマーク。今大会4試合で打率1割7分6厘と調子が上がらなかった男が、貴重な2発で決定づけた。日本は15日のイスラエル戦に勝てば全勝で米ロサンゼルスで行われる準決勝へ進む。

 ベンチがスタンドが、両手を上げた。視線の先。山田は静かにダイヤモンドを1周した。8回2死一塁。内川の犠飛で勝ち越した直後だった。「スライダーがくると信じていた」。読み通りだった。浮いてきた初球をたたきつぶした。打球は左中間スタンド中段へと消えた。勝利を決定づける、この試合2発目だった。

 「4試合納得いってなかった。今日は絶対自分が打って勝つと思っていた。打撃練習からよくて、余裕がよかったのかな」

 強い決意と予感は、1打席目からバシッとはまった。3試合ぶりの1番に座って迎えた第1打席。カウント2-1から高め速球を振り抜いた。左翼スタンドに着弾する1号ソロ。「1番としていい仕事が出来た。準備不足だと思って、早めに準備した。9時間いい睡眠がとれたのがよかったのかな」と少しだけ笑った。

 本当に打った。試合開始約7時間前。約500キロ離れた甲子園で、恩師が予感していた。母校・履正社の岡田監督。センバツを控えた甲子園練習を終えると「今年もあいつは活躍しますわ」と語っていた。4試合で打率1割7分6厘の教え子に「全然打ってへん」と笑ったが、あの夜の出来事で確信した。

 1次ラウンド初戦7日のキューバ戦の“幻弾”。岡田監督は山田が、思わずキャッチした中学生へ向けたコメントを読んだ。新聞には「またグラブを持って応援に来てほしい。これも何かの縁。将来プロ野球選手になって、一緒に『あんなことがあったね』と懐かしい話ができるように頑張ってほしい。僕も完璧な本塁打を打てるように頑張ります」とあった。

 「あまりにいいコメントやったんで『お前ほんまに言うたんか』ってメールしましたわ」と豪快に笑った。山田の答えは「はい。また球場に来てほしいので」だった。「うれしかった。あんなことを言えるなら、今年も大丈夫」。性格まで熟知する教え子だ。成長に驚き、確認までした。試合後は「今日の本塁打ならキャッチしても本塁打やな」と再び頬を緩めた。

 第2打席でも三塁線を破る二塁打を放ち3安打3打点、4得点の活躍。チームを5連勝に導いた。「今日だけじゃなく明日も米国でも、暴れられるように頑張ります」と今大会初のお立ち台で宣言した。支え、支えられて。山田はシャープに振り抜いた。【池本泰尚】