プレーバック日刊スポーツ! 過去の3月18日付紙面を振り返ります。2006年の1面(東京版)、WBC初代世界王者に輝いた王JAPANは失点率0・01差での準決勝進出でした。

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 王JAPANに「奇跡」が起きた。国別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の2次リーグ最終戦で、米国はメキシコに1-2でまさかの黒星。1勝2敗で米国、メキシコ、日本が並んだが、失点率の差で日本の4強入りが決まった。王貞治監督(65)は「神風が吹いたな」と表現。二女理恵さんには「涙が出た」と電話で伝えた。明日18日の準決勝、三たび戦う韓国戦先発に上原浩治投手(30)を早くも予告。先発投手も中継ぎに組み込む総動員態勢で世界一を目指す。

 見えない力が働いた、としか受け止めようがなかった。サンディエゴ市内の中華料理店。関係者と食事をしていた王監督のもとに、吉報は届いた。「勝った? メキシコが、そうか」。王JAPANの準決勝進出が決まった。王監督の円卓で歓声がわき起こる。メキシコ人の男性客が激励に駆け付け、王監督はハイタッチを交わした。「99%ないと思ってたよ。神風が吹いたな。夢みたいだよ。こんな気持ちになったのは久しぶりだな」。周囲と感激を分かち合った。

 覚悟は決めていた。「まな板の上のコイ。もう守るものはないんだから」。チームはこの日、2次リーグが行われたアナハイムを昼過ぎにバスでたち、約2時間後、決勝トーナメントの地サンディエゴへ到着した。気になる試合は午後4時半開始だったが、その時間は宿舎周辺を散歩し、空母や潜水艦などを見学した。午後6時前に食事へ出発するときは同点。食事中にメキシコが1点を勝ち越した。20メートルほど離れたバーカウンターで、米国-メキシコ戦はテレビ中継されていたが「おれは怖くて見れんよ」。そう言って関係者からの“報告”を受け続けた。円卓では米国製のビールが27本、空き瓶になった。米国の27アウトを飲み干していた。

 4強入り。日本を出発前に王監督が最低ノルマに掲げた位置だった。準決勝の相手は韓国。1、2次リーグではともに1点差で敗れた。決勝進出のため、アジアの盟主のプライドを保つためにも、3敗は許されない。決勝ラウンドの球数制限は95球。カギを握る先発には上原を指名した。「国際試合の経験も豊富。上原君に託すしかない」と試合前々日に予告した。

 また韓国戦ではともに8回に決勝点を奪われただけに、中継ぎをフル回転させて終盤の失点を防ぐ。「和田は中継ぎで使いますよ。決勝も使えるし、総動員、総動員」と、これまで第2の先発として起用してきた清水、和田らも場面にこだわらずに起用する方針だ。

 中華料理店で最後に出た「フォーチュンクッキー」で、王監督は「Your perspective will shift(未来は明るい)」と書かれた白い紙に当たった。12日の米国戦で審判の“誤審”という試練を受けた日本に、野球の神がほほ笑みかけたのだろうか。「正直者には神が宿るんだよ。ここまできたらあと2つね」。午後9時には宿舎で選手を集めた。失点率でわずか0・01米国を上回っての進出。「ここまできたのも、みんなが失点を抑えてくれたから。メキシコには感謝するが、実力でつかんだんだ。あと4日間、僕にその体を預けてくれ。思い切ってやろう」。1度は消えかけた世界の頂が、今は見える。

※記録と表記は当時のもの