侍ジャパン小久保裕紀監督(45)が、柔軟な選手起用で準決勝進出を勝ち取った。現役時代は勝負にのめり込み、広い視野を持てなかった。その教訓から選手に遊び心を求め、自らも固定観念を捨てた。この日も監督就任から全試合で起用し続けてきた中田をスタメンから外した。求めるのは勝利のみ。世界一奪還へ、手応えを胸に太平洋を渡る。

 ウイニングボールを握り締め、笑顔で選手を迎え入れた。6戦全勝での準決勝進出。小久保監督は口元を引き締め直して言った。「一番は信じるということ。送り出した選手を信じる、自分の決めたことを信じるということを、自分に言い聞かせていた。それだけでした」。

 揺らがぬ信念で選手とともに戦い抜く-。自身の経験から得た言葉を出陣前の選手に贈っていた。7日の開幕キューバ戦前。全選手に「遊び心」を持つよう求めた。現役時代、勝負にのめり込みすぎ、広い視野を持てなかった教訓からのメッセージだった。

 小久保監督 (試合に)入り込んでしまうと、自分の持っている力を十分に発揮できない。ベテランになって、自分を客観視出来るようになって、結果を出せたと思っている。客観視は難しいが、そのためにも心にゆとりを持っておいた方がいい。

 発した言葉を、自らが柔軟な選手起用で体現した。この試合では、監督就任からスタメンで使い続けてきた中田のベンチスタートを決断。2次ラウンド初戦のオランダ戦では、バンデンハーク対策として打撃好調の松田を控えに回した。1つの用兵に固執せず相手戦力、選手の状態などを冷静に見極める。「出ていない選手たちを使ってあげたい心情はあるが『勝つ』と宣言した。その気持ちに選手は応えてくれた」。全員が納得できる起用法はない。チームを俯瞰(ふかん)した判断が、6連勝を支えた。

 韓国に準決勝で逆転負けを喫し、初代王座を逃した15年のプレミア12直後。「代表は各チームの主力の選手が集まっている。そのプライドに対して、リスペクトはあった。気配りはしました、やっぱり」と明かした。そしてWBCに向けて覚悟を決めて言った。「勝つ中で気配りはしていくが、采配に遠慮しない自分をつくる。これは俺の覚悟の問題」。

 屈辱の敗戦から1年4カ月。「次は一番難しい準決勝。何とか乗り切って世界一になりたい」。小久保監督の変化は、泥だらけになった侍たちのユニホームに表れた。遠慮を排除した総大将によって解放された力。明日なき戦いへ。覚悟は決まっている。勝つために、米国へ乗り込む。【佐竹実】