セオリーにない左フックだった。プロボクサー辰吉寿以輝(18=大阪帝拳)が20日、プロ2戦目を行った。1勝3敗の岡村直樹(26=エディタウンゼント)を相手に、2回2分28秒に左一発でKO勝ち。衝撃的なノックアウトシーンといってもいい豪快さだった。

 フィニッシュシーンの直前。寿以輝は岡村のクリンチをふりほどこうと両手を伸ばしていた。右に逃げる相手を追うように左フックを打つのだが、左腕と左足をマットから浮かせて、右足を軸に体ごと半回転してたたきつけている。通常の左フックは右足を軸にしつつ、両足で踏ん張って打つもの。左足を浮かせることは普通、練習しない。「倒してやる!」という気持ちから本能的に出たパンチだろう。技術的に未熟と言われれば確かにそうだが、そのパンチでKOしてしまうのは規格外といえる。

 相手の岡村は、マットに後頭部を打ちつけた。一般的にボクサーはマットに後頭部を打つような倒れ方はしない。倒された意識がなくても体が自然と頭を守るように反応する。よほど痛烈なKOでなければ、頭は打たない。逆にいえば、マットで頭を打つような倒れ方をした選手が、逆転勝ちすることはほぼない。岡村側のセコンドがタオルを投げたことは当然の判断だ。

 辰吉丈一郎の次男を見る周囲の目は甘くない。寿以輝自身、礼儀正しく、練習態度もまじめ。父のようなやんちゃムードはあまりない。ただ試合を見れば、格闘技センスがある、もしくは、けんか慣れした粗削りな少年が本能で相手をぶっ倒しているように見える。普段は物静かだが、その本性はどうしようもなくどう猛なファイターなのではないだろうか。【益田一弘】