新日本プロレスのG1クライマックスが終わった。史上最長28日間、19大会の長丁場に、最後の両国3連戦の盛り上がり。7万人を超す観衆が詰めかけた真夏の祭典は、新日本再興の立役者、棚橋弘至の優勝で幕を閉じた。

 大いに盛り上がったG1で、忘れられないシーンがある。8月9日、後楽園ホール。Bブロック公式戦の後藤洋央紀-石井智宏戦だった。ともに4勝2敗と優勝争いで負けられない戦いは、メーンにふさわしい壮絶な戦いとなった。両者へのコールが会場を二分し、終盤はリング中央で足を止めて、ラリアット、頭突きの打ち合い。試合は、僅差で後藤が勝利した。しかし、会場は石井コール。観客席では涙を流す女性が多く見受けられた。

 石井の戦いは、後楽園ホールの観客に感動を与えた。あらゆる装飾を省いた、昭和の臭いのするプロレスのスタイル。体も大きくない。常に相手に真っ正面からぶつかり、相手を挑発し、相手の持つ最大限を引き出し、それを受け止める。派手な技もなく、エルボー、ラリアット、垂直落下式ブレーンバスター、頭突きがほとんどのプロレスだが、それでも石井の試合には外れがないと言われる。

 試合後も、インタビュースペースを通り過ぎたり、さっさと控室に戻ったりと、生の声が聞けない場合が多い。故障などの話を聞かれるのがいやなのだろう。左ひじ負傷で欠場し、その復帰戦となった中邑真輔の試合でも石井は、いつもと変わらぬ激闘を演じた。敗れた石井は、試合後のインタビューはなし。だが、中邑のインタビュー後に突然やってきて「参りました」と、頭を下げ、おどけたように笑った。敗れたことより、仲の良い中邑の復帰を喜んでいるようだった。大会を通して唯一、石井が笑ったシーンだったが、記者は「ちゃめっけもあるんだ」と、石井の人柄を見た気がした。

 「あんなファイトを続けていたら、G1の期間中もたない」というベテラン記者の声も聞いた。大会前の7月5日、大阪城ホール大会で、痛めていた左肩を再び痛めた。それでも、石井は28日間を、何事もなかったかのように完走。すべての試合で、見る者を熱くさせるファイトを見せてくれた。天龍源一郎、長州力に師事し、その武骨なプロレスを受け継ぐ石井が、今年のG1クライマックスを盛り上げた陰の功労者だったと思う。名脇役がいてこそ、主役も輝く。石井智宏にはプロレスの奥の深さを教えられる。【桝田朗】