日本選手初の4階級制覇を狙った亀田興毅(28=亀田)が、WBA世界スーパーフライ級王者河野公平(34=ワタナベ)に0-3の判定で敗れ、試合後に引退を表明した。

 ボクシング一家の逸材長男から物語は始まり、その後は異端児、ヒール役…と、ボクシングを知らない多くの国民からも注目を浴びてきた。デビューから快進撃を続けていたころ、私はゴルフ担当で、彼と同世代の宮里藍や横峯さくらの取材をしていたが、世界初挑戦だった06年8月のランダエタとのWBA世界ライトフライ級王座決定戦は、出張先の札幌でテレビ中継を凝視した思い出がある。

 初めて取材したのは、11年2月だった。当時の橋下徹大阪府知事から、府民栄誉賞にあたる「感動大阪大賞」を贈呈された際に、話を聞いた。想像していた以上に小柄で「大阪に帰ってくるたびに『ええなあ』って気持ちになる。今までいろんな賞をもらってきたけど、この賞が一番うれしい」と、目を輝かせて話していた。その姿は、他の夢見る若手スポーツ選手と何ら変わらない印象を受けた。

 12年8月にボクシング担当になって、彼の大阪での世界戦も取材した。13年4月、パノムルンレックとのWBA世界バンタム級王座6度目の防衛戦。2-1の判定勝ちだったが、しょっぱい内容に、こちらも記事を書くネタがないと焦っていると、彼は驚くべき行動に出た。セレモニーを終えると、リング上で膝をつき、涙を流しながら四方を向いて頭を下げたのだ。ざんげの土下座。「こんないっぱい集まってもらったのに、申し訳ない。すんません。あかんもんは、あかん。しょうもない試合してしまいまして、本当に申し訳ない」。とてもパフォーマンスに走ったとは思えなかった。純粋な心がないと、これほどまでプライドを放り出して、情けない姿をファンにさらすことなどできないだろう。

 対戦相手の実力や不可解なマッチメーク、判定結果などが疑問視されたが、亀田自身ではどうしようもないことも少なからずあったはず。ファンはアンチの方が多い印象だが、評価されない試合が続いても、なぜか見てしまう…魅力というか魔力の持ち主だったようにも感じる。そんな彼だけが持つ「力」は引退しても簡単には消えないだろう。今後、どういう道を歩むのか。大いに関心を持って見ていきたい。【木村有三】