2016年のプロレス界の流行語大賞を選ぶなら、おそらく「トランキーロ」で決まりだろう。新日本プロレスで大ブレークした内藤哲也(36)の決めぜりふだ。15年5月のメキシコ遠征から持ち帰ったロスインゴベルナブレスというユニットとともに、内藤が口にするようになったスペイン語。「トランキーロ! あっせんなよ」というセリフは、瞬く間に日本中に広まった。

 内藤の勢いは、2017年も健在だ。1月4日の東京ドーム大会で、悲願の棚橋弘至超えを果たした。2月11日の大阪大会では、マイケル・エルガンとの激闘を制し、王座防衛に成功した。内藤は、ロスインゴベルナブレス・デ・ハポン(LIJ)のメンバーとともに「今年も、我々LIJが、皆さんに楽しい時間をプレゼントしようかなと、思ってます。次の、大阪ビッグマッチ、つーまーり、大阪城ホール大会も、我々LIJが、大阪のお客様を熱くすることでしょう。まあ、大阪城ホール大会は、まだ4カ月も先の話なわけで、こういうとき、なんて言うかわかりますか? そう! まーさーに! トランキーロ!! あっせんなよ!」。会場は大歓声に包まれ、内藤コールが鳴りやまなかった。

 そんな内藤に、トランキーロを使うようになったきっかけを聞くと、意外な答えが返ってきた。「実は、あれは自分自身に向かってかけている言葉なんです」。自らの閉塞(へいそく)感を打破するために渡ったメキシコ。そこで出会った本家ロスインゴベルナブレス。ようやく悩みからの出口が見えかけた内藤は、試合中も積極的にリングに飛び出していった。そんな内藤に仲間のラ・ソンブラたちがかけた言葉が「トランキーロ」だった。

 「最初は内藤、落ち着け。慌てるな、みたいな言葉だった。ボクは楽しくて、プロレスがしたくて仕方がなかったけど、周りの仲間たちは焦らず、ゆっくりやれと言ってくれた」と内藤は振り返る。自分を生まれ変わらせてくれた仲間たちの思いを胸に、内藤はLIJとともに日本でブレーク。その勢いはとどまるところを知らない。

 観客や対戦相手に発する「トランキーロ!」の言葉は、長年の苦悩の末にトップの座をつかんだ内藤の自分に対する自戒の言葉でもある。2016年に大ブレークした内藤にとって、今年は勝負の年とも言える。滑り出しは好調だ。今後も勢いを落とさず、走り続けるために、内藤は「トランキーロ!」を発信していく。「焦らずに、自分の道を突き進め!」と。【プロレス担当=桝田朗】