総合格闘技界に、すごい選手が現れた。かつての山本“KID”徳郁や、魔裟斗を超えるかもしれない。RIZIN横浜アリーナ大会で、わずか67秒の衝撃KO勝利を演じた那須川天心(18)だ。昨年12月29日に、キックボクシング界から総合格闘技に参戦。デビュー戦をKOで飾ると、主催者に直訴して2日後の31日に出場。今度は1本勝ちを収め、前代未聞のデビュー戦2連勝を飾っていた。

 那須川は、対戦相手のフランチェスコ・ギリオッティーと対戦した。「開始20秒ぐらいで、相手の動きは見切っちゃいました。打った打撃は全部当たって、相手をコントロールできた」と、冷静に言ってのけた。5月20日に後楽園ホールで、キックボクシングのISAK世界バンタム級王座の初防衛戦が決まっていた。「次の試合があるので、早く倒そうと思っていた」というが、不慣れな総合の試合で思った通りのKOができるところが、並の選手とは違うところだ。

 キックボクシング界では、早くから「神童」「天才」の名前をほしいままにしてきた。格闘技アニメで見たワザを試合で初めて使ってKOしたり、観戦にきた先輩の得意技をとっさに試合で出したりと、その逸話にはこと欠かない。ハデなKO勝ちがトレードマークになっているが、那須川の強さの秘密は卓越したディフェンス力にある。

 「打ち合っているように見せといて、自分だけ当てるのが一番いいんです」というのが、那須川の真骨頂だ。空手からキックに転向した小学時代。常に那須川の相手は、自分より学年の上の選手だった。「自分の倍ぐらいの選手と対戦して、真っ向勝負しても勝てない。一発もらったらダメージが大きいし、それが命取りになることもある。だから、父とずっとディフェンスの練習をしてきました」と話す。

 高校1年の時に通ったボクシングの帝拳ジムでは、名伯楽の葛西裕一トレーナーに指導を受けた。「1カ月間、ずっと左ジャブとガードの練習だけだった。そこで、相手のパンチを避ける技術を学んだ」と話す。同ジムからは、素質を見込まれボクシングの世界王者になれると勧誘されたという。

 キック、総合、ボクシングと無限の可能性を秘めた那須川だが、当面はキックに軸足を置くという。「20歳までに、キック界を統一することが目標。その後は、ボクシングからも声がかかっているし、いろいろ選べる状況」と、しっかり将来を見据えている。20歳でどんな選択をするのか。これからのキック、総合の戦いとともに目が離せない。【バトル担当=桝田朗】