プロレスの話を書こうと思うのだが、その前に別ジャンルの話を少々。

 ボクシングのWBOアジア太平洋フライ級王者・坂本真宏(27=六島)を取材した。彼は“私が落ちた”大阪市立大の現役大学院生で、4月1日に防衛戦を行う。つまりとても勉強ができる。それなのに“殴り合い”に足を踏み入れた。

 「う~ん…非日常ですかね。普通に生活してたら、あり得ない空間でしょ?」

 大相撲春場所の前相撲で土俵を踏んだ新弟子の神谷元気(15=陸奥)を取材した。彼は宮崎・川南町で生まれ育ち、地元の極真空手の道場で中学日本一になった。それなのに、全く別の格闘技を選んだ。

 「高校で別のスポーツをやろうかと思ってたんです。そんな時、昨年の秋、宮崎で陸奥部屋の合宿があって、参加させてもらったら、もう全然何もできなくて…。それで“おもしろいなあ”と思ったから」

 違うジャンルの話だが、2人が求めたものは“自分ができないこと”や、単純な素手の戦闘能力における“強さ”なのでは、と思う。乱暴に言えば、男なら誰もが強者への憧れがある。そこじゃないか、と思う。

 で、プロレスの話。子どもの頃、単純に「誰が1番強いのか?」と思っていたらアントニオ猪木が「IWGP構想」をぶち上げた。スタン・ハンセンがいて、ローラン・ボックなんかもいて、スティーブ・ウイリアムスとかも強烈やった。やがてUWFが生まれて、前田日明がいて、佐山聡がいて、藤原喜明がいて…で、リングス、パンクラス、UWFインターナショナル、藤原組とかに派生して…。今、プロレス界で強烈に“強さ”を発信してるんは、鈴木みのるじゃないか、と思っている。

 船木誠勝と腕を磨き、パンクラスを立ち上げ、キック・ボクシングの世界王者モーリス・スミスと異種格闘技戦をやって、ボロボロになった。そんなこんなのバックボーンを持って、ザ・プロレスラーとしてリングに立つ。だから「本気出したら、マジでヤバいんちゃうの?」と思わせる。

 新日本プロレスで言えば、オカダ・カズチカも、棚橋弘至も、内藤哲也も個性がある。キャラも濃い。魅力的なレスラーだ。でも、誰が1番怖そうか、ヤバいことやりそうか、と考えたら、やっぱり鈴木みのる、なのだ。狂気じみた表情、超傲慢(ごうまん)なたたずまい。イメージ作りの部分もあるやろうが、どこまで行っても本物感がある。試合後の取材も、ちょっとビビるしね。彼がいるから、オカダも棚橋も内藤も、より輝く。今のプロレスがあるのは、鈴木みのるのおかげやないか。何となくやけど、そう思う今日この頃である。【加藤裕一】