何かやるかもしれない。そんな思いで後楽園ホールに向かった。

 東京ドームでは安室奈美恵のコンサートがあったが、開演時間が近く人通りは少なかった。ところが後楽園ホールのあるビルにたどり着くと、5階の会場から1階入り口の外まで長蛇の列。やっぱりなんか起きるなと会場入りした。

 亀田興毅の一夜限りの現役復帰での引退試合で、亀田一家が久々表舞台に登場した。数々の騒動や物議を醸したが、一時は日本中が注目したボクサーだったのは間違いない。最近は1000人を切る興行も珍しくなく、リングサイド席は1万円以下が多い。倍の2万円だったが、1803人の観客が詰めかけた。

 客席にネット中継のひな壇が設けられた。MC陣内智則、アシスタント神田愛花、ゲストは板野友美、市原隼人、K-1の武尊ら、解説は元世界王者の竹原慎二、内山高志の両氏に、客席に浜崎あゆみ、佐々木主浩氏、御嶽海、照ノ富士ら。あのASKAもいた。亀田家の血が騒がないわけはなかった。

 ポンサクレックには8年前に判定で初黒星を喫して王座陥落し、父史郎氏が暴言などで大騒動の因縁があった。引退試合とぶち上げてしぶとく粘ったが、結局は単なるスパーリングになった。国内規定でポンサクレックのライセンスが認められず。8オンスのグローブで10回戦の希望が、10オンスでの6回戦でヘッドギアなしのスパーになり、ジャッジはいなかった。

 それでも入場ではライセンスを剥奪された史郎氏を先頭にした亀田トレインも復活させた。3兄弟にメキシコでプロデビュー勝利した妹姫月、前座でプロ初勝利のいとこ京之介も連なった。

 31歳の興毅は2年半、40歳のポンサクレックは直前にタイで突然復帰戦も実に5年ぶりリング。差は歴然でポンサクレックが不憫に思えた。亀田は2回に右ストレートでぶっ倒すと「どんなもんじゃい!」と叫んだ。

 さて、10カウントゴングの引退式となったところで事件は起きた。5つ目のゴングが鳴ると、マイクを手にして「ちょっと待った」。あのロマゴンことゴンサレスと「もう1試合やりたい」と言いだした。ゴング前に足元へマイクを置くよう促していたという。あとで「迷いに迷った」とは言ったが…。

 会場は華やかさがあったが、いつもと違う雰囲気だった。見慣れたボクシングファンより、見慣れぬ一般ファンが多かった。「現役復帰プラス1」に喜ぶ観客もいたが、何人もが「うそつき!!」と叫び、場内騒然となった。

 亀田は当初から「戦いたいボクサーが2人いる」と言い、ロマゴンがその1人とみられていた。一時期は世界最強と言われた現役バリバリのボクサーで王座奪回を狙っている。実現性は極めて低い。

 内山氏は京之介を指導した縁で駆けつけた。指導効果発揮でKO勝ちを見届けると「所用」を理由に会場を後にした。「亀田劇場」は見ていない。ボクシング関係者の姿もほとんどなく、亀田復帰への業界の見方、思いを示す。

 昨年7度目の引退をしたプロレスラー大仁田厚を思い出した。【河合香】