モンスター井上尚弥がいよいよ5月にボクシング発祥の地英国に初上陸する。海外は17年の米国以来2試合目。初の団体統一戦で19年の黄金カード第1弾となる。井上に限らず日本勢の海外進出はどんどん増えそうだ。今年もここまでの世界戦は米国での2試合。2人とも壁にはね返されたが、印象に残るボクサーで熱い会長だった。

横浜光ジムの高橋竜平は11回TKO負けした。東洋大ではレギュラーにも入れず、12年のプロデビューも初回TKO負け。そこから米ニューヨークにある格闘技の殿堂マディソンスクエアガーデンにたどり着いた。試合の正式決定は1週間前も、石井一太郎会長は「可能性は0%でない」と迷うことなく受けた。

会長は明大時代にボクシングを始め、日本、東洋太平洋王座を獲得した。宮川会長から勧められてトレーナーに転身したが、2年後にその会長が急逝した。元々は会長が会社経営のかたわら開設。存亡危機となったが12年に跡を継ぎ、世界王者を3人育てたジムの歴史をつないだ。

現役時に海外修行経験もあり、積極的に海外での試合もマッチメークする。高橋も17、18年とタイでの試合で成長させ、世界ランクを上げたのが世界戦に結び付いた。選手指導は基本的にトレーナーに任せて「選手をリングに上げるのが仕事」と話す。

14年には動画配信サイトも立ち上げた。裏話や臆せず物言う専門誌の連載コラムも評判だ。36歳とこの業界では若く革新的会長だ。

ワールドスポーツジムの井上岳志は、斉田竜也会長と同じ駿台学園、法大を経て入門した。米ヒューストンでNBAロケッツがホームのトヨタセンターで世界挑戦。判定は2人がフルマークも、全勝のスター候補王者にひけをとらず「偉大なファイター」と言わせた。

斉田会長は国体と全日本を制したトップアマだった。卒業後はダイエーに入社も1年半で退社。「ボクシングの世界が恋しくなって」と、ジム開設を前提に国際ジムでトレーナーに転身した。足立区の若手経営者を支援する無利子で資金を貸すシステムを利用。05年に東京・竹の塚のビルを買い取ってジムを開いた。

1年以上かけて、昨年5月にリニューアルオープンした。3、4階が練習場で、6、7階は合宿所。更衣室のある2階には整骨院も併設され、会員は割引料金という。さらに5階には銭湯とサウナがあり、会員は無料で利用できる。

「合宿希望者は断っている」という状況から、現在は整骨院を1階に移し、2階も合宿所にする工事が進んでいる。実に豪華で近代的な日本初の銭湯付きジム。やり手の会長の下へ今後も有望選手が集まりそうだ。

高橋も井上も世界への思いはより強くなり、再挑戦を期す。二人三脚の歩みはまだ続く。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

井上岳志
井上岳志