プロレスリング・ノアのGHCナショナル王者拳王(37)は、新日本プロレスとの対抗戦で、両団体のファンに強烈なインパクトを与えた。

8日に横浜アリーナで行われた約5年ぶりの対抗戦。ノア勢は、メインイベント2のタッグマッチで、ホープ清宮海斗(25)がオカダ・カズチカ(34)に完敗を喫するなど、4勝6敗1分けの苦戦を強いられた。だが、試合前も試合後も、話題の中心にいたのはノアの拳王だった。

拳王は、ダブルメインイベント1で自身がリーダーを務めるユニット「金剛」のメンバーとともに、内藤哲也(39)率いる新日本の人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」の5人と10人タッグマッチで激突した。中盤は内藤と打撃合戦を展開。美技の応酬は、解説の蝶野正洋氏からは「日本のプロレスリングの団体にはいい選手がいますね。びっくりしますよ、本当に」と称賛を受けるほど。倒れた相手を踏みつけ、「日本一はこんなもんか? 日本一はこんなもんかよ」などと繰り返し挑発し、満員の会場を盛り上げ続けた。試合はタダスケ(36)が鷹木信悟(39)に3カウントを奪われて敗戦となったが、拳王は敵陣をにらみつけたまま、最後までリングを去ろうとしなかった。

誰よりも新日本との戦いにかける思いは強かった。5日の新日本の東京ドーム大会では、団体の先頭に立って殴り込んだ。「てめーらが困っているからノアが助けに来たぞ!」と叫び、対戦への緊張感をより一層高めた。敗退後は、無言で会場を引き揚げたことがファンやマスコミの間で物議をかもしたが、悔しさは表情や態度に表れていた。あえて言葉にせずとも、「対抗戦はこれで終わらない」という闘志をまざまざと感じさせた。

学生時代、日本拳法に明け暮れた拳王は、幼い頃から口で引っ張るようなタイプではなかった。高校、大学時代は部活動でキャプテンを務め、全日本学生拳法個人選手権大会では2連覇を達成。「常に言葉ではなく、背中で引っ張ってきた」と話した。今回あえて強い言葉を使ったのも、自らを奮い立たせるためだったに違いない。

賛否両論はあれど、その足跡を刻んだ。IWGP USヘビー級王者棚橋弘至は対抗戦後に、気になった相手に「拳王」の名を挙げた。ツイッターやインターネットの掲示板でも、連日、「拳王」の文字が躍った。確かに、プロレス界には、新日本のオカダや鷹木らのように言葉で引っ張る選手は必要不可欠。だが、拳王のように、がむしゃらに引っ張ろうとする選手も欠いてはならないはずだ。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)