不測の事態に備えたマニュアルが生きた。ただ1人の立行司・式守伊之助が、度重なる軍配差し違えで3日間の出場停止。作成済みだった行司の担当取組が8日目の15日朝、変更された。「何か起こった場合、こうするというマニュアルが出来ている」(協会関係者)。それに沿って本来、2番を受け持つ十両行司の木村善之輔と木村千鷲が3番ずつを担当。伊之助の2番分は、これでカバーされた。

 担当取組は順番に繰り下がり、不在となった立行司が裁く結びとその前の2番は、三役行司の式守勘太夫(56=高田川)が3日間、受け持つ。横綱の取組は裁いても、もちろん結びは初めて。「心の備えを常に持つべき立場にいるのが三役格。集中して、つつがなくこなしたい」と臨んだ。口上や弓取り式など儀式がある分、緊張感は増すが「水が流れるがごとくです」と己のスタイルを貫く。

 ある意味“持っている”行司だ。女性客の乱入、1場所2回の引き分け、同一取組の2場所連続水入り、史上初の平幕優勝決定戦の裁きも経験。立行司への備えはある。だが「定年まで結びを裁くのは今日からの3回だけと思っています」と話す。年功序列の世界。定年まで常に3カ月年下の伊之助の2番手。立行司にはなれても結びを裁く木村庄之助への昇格はない、と悟る。目の前の一番を、よどみなく裁くだけだ。【渡辺佳彦】