ついに。とうとう。やっと。ようやく。まさか本当に。そんな気持ちがいっぱいある。稀勢の里(30=田子ノ浦)の初優勝、そして第72代横綱昇進は。

 新横綱については連日、多くの報道がなされている。ご多分に漏れず、弊社も。なので、ここでは別の話を。といっても、稀勢の里関連に違いはないが。

 昇進伝達式の翌26日、東京都江戸川区の田子ノ浦部屋に、続々と人が集まってきた。芝田山親方(元横綱大乃国)が1番手。その手には、土俵に下りるための足袋があった。続いて豪風、嘉風、天風の尾車トリオ。荒磯親方(元前頭玉飛鳥)の後には高田川親方(元関脇安芸乃島)とその弟子の輝、竜電が続いた。その後も続々と…。

 いずれも二所ノ関一門。そう、新横綱の新しい綱をつくる「綱打ち」に一門の親方衆、関取衆が集結した。親方16人はほとんど。12人の関取は全員だった。部屋の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)と西岩親方(元関脇若の里)、高安も加わる。部屋は大いににぎわった。この姿に、二所ノ関一門の団結力を見た気がした。

 初場所でかど番大関として負け越し、関脇に陥落する琴奨菊の心境を、周囲は少し推し量ったかもしれない。それでも紅白のはちまきを頭に、笑顔を見せながら綱をよった。「すごいね。縁起物だからね。しっかり務めさせてもらいました。横綱はすごいこと。自分も来場所頑張る」。

 豪風は、37歳の幕内最年長ながら初めての体験だった。「この世界に入って、綱打ちを経験しないで終わった人もいる。やっとつかんだこの経験ですよね」。太鼓をたたいて「ひい、ふの、み」の掛け声を呼んだ。

 露払いを務める松鳳山は「横綱から直接『よろしくお願いします』と電話がありました。ありがたい、光栄なことです。これからその役割を外されないように頑張らないと」と笑った。

 初優勝からこれまで、稀勢の里は事あるごとに「自分にできることは、そういう人たちを引っ張り上げること。感謝の気持ちを込めて稽古したい」と言ってきた。そして「やっぱり、高安を大関に引き上げるのも、自分の使命」だと。

 伝え聞いた高安は「最高のお言葉ですね」と感激し「体を追い込むしかない」と決意を新たにしていた。

 現在の相撲界の一門は6つ。場所前、必ずと言っていいほど連合稽古を開くのは今、二所ノ関一門だけしかない。“身近”な稀勢の里の横綱昇進によって、新たな刺激を受ける力士ばかり。その刺激を吸収して力に変えようとする力士ばかりだった。

 思えば初場所の幕内42人を一門別に分けると、時津風と出羽海の各8人を抑えて、二所ノ関一門の10人が一番多い。三役で勝ち越した玉鷲、高安もいる。新横綱の誕生によって今後ますます、つわものどもが生まれ育っていく予感がする。【今村健人】