新横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)の誕生に、日本中が沸いている。角界も例外ではなく「おめでたいこと」「いい刺激になりますね」と、話す力士も多い。横綱鶴竜(31=井筒)も「気合が入る。いい存在になる」と、歓迎ムードだ。

 そんな中、横綱白鵬(31=宮城野)には、並々ならぬ思いがあった。初場所では最後まで優勝を争った相手。これまで何度も稀勢の里の壁になったが、ついに超えられた。横綱10年目の大先輩として、思うこともいろいろある。初場所後からの、稀勢の里への言動を振り返ってみた。

 稀勢の里の明治神宮奉納土俵入りをテレビで見た白鵬は「顔が緊張してたね。夢の明治神宮だもんね。横綱にしか出来ないからね」と余裕の表情を見せ、このフィーバーぶりも「時間の問題でしょう。春場所は見せてやりますよ」と、ニヤリと顔を作って話したことがあった。時には「今度は自分らしい取組で先輩横綱の意地を見せたいと思う」と、ライバル心をのぞかせたこともあった。

 一方でこんな一幕もあった。稀勢の里の横綱昇進に「(横綱になるのは)時間の問題だったんでしょうね。大関は5年間? 立派に務めた力士だからね」と、褒めたたえたり「右も左も分からないでしょ。1場所経験してあらためて実感沸くと思うよ」と、経験談からアドバイスを送ったこともおあった。さらに「今はうれしさと勢いを大いに感じている。これからが大変だね」と、案じたこともあった。

 振り返ってみると、稀勢の里に対して強気を見せる一面と優しさを見せる一面が、ほぼ半分ずつだった。もちろん土俵の上では、ガツン! と行きたいところ、だが「五分で戦っていきたい。控えめに」。顔は笑っていたが、目の奥には燃える何かがあった。【佐々木隆史】