向正面の升席で稀勢の里の父萩原貞彦さん(71)と母裕美子さん(62)は、息子の勇姿を見届けた。

 茨城の実家から約9時間かけて、自らの車の運転で駆けつけた貞彦さんは「2つとも取れる予感がありました」と話し、14日目の鶴竜戦の黒星に「いい演出になったんじゃないですかね」と冗談交じりに言った。左肩付近を負傷しても出場した姿に「横綱でなかったら出場しなかったと思う。稀勢の里を見たくて大勢の人が来てるからね。ファンがいなければ相撲は成り立たない」と息子の気持ちを代弁するように話した。

 裕美子さんは息子の強行出場に「絶句です。あんなに痛がるの初めて見ました。休場でもいいと思いました。親としては心配だった」と親心をのぞかせた。君が代斉唱で泣く息子の姿に「子供の時から泣き虫だった。ああいうの見て泣けました」ともらい泣きした。

 支度部屋近くの売店にいた時に、場所入りした息子と遭遇した。知らないふりをしたが、一瞬見ると目が合ったという。「横綱になってから近寄りがたい」と裕美子さん。だがアイコンタクトで、家族の力は確実に伝わっていた。【佐々木隆史】