横綱稀勢の里の誕生と2連覇による熱気は、両国国技館だけではない。かつての「相撲の町」にもにぎわいをもたらしている。

 田子ノ浦部屋が居を構える東京都江戸川区の小岩。第44代栃錦の出生地でもある土地に移ったのは14年末だった。JR小岩駅には栃錦の銅像があり、菩提(ぼだい)寺もある。まさに相撲の町。ただ、当初は相撲部屋が移ってきたことすら、知らない人が多かった。

 それから2年半。初日前日に呼び出しが各商店などを回って取組を呼び上げる「触れ太鼓」の数は一気に増えた。最初の数軒から、初場所は14軒。今場所前は17軒に。当初から商店を回って頼み、活気を取り戻そうとしてきた地元の富田勝之さん(57)は「横綱の人気はすごい。もう、秋場所前の予約も来ています」。

 夕方から3時間近く巡る田子ノ浦部屋の呼び出し光昭は「ここに相撲部屋があると分かってくれたんでしょうね。相撲好きが多い町だと感じます」。部屋を探し歩き、看板の写真を撮って帰る地元の人も増えた。店には優勝を祝うポスターが張られ、相撲にちなんだ音楽も駅前から流れる。

 「触れ太鼓」の基礎は1700年代前半の徳川吉宗の享保にさかのぼる。1人の横綱が、小岩に相撲の色香を再び送り込んでいる。【今村健人】