大相撲で座布団と言えば? 横綱が敗れた際に館内を舞う光景がまず思い浮かび、次いで幕内力士らが土俵下で座る物だろうか。実は支度部屋にも、各関取ごとにある。150センチほどを3つ折りにし、厚みを出して座る。たいていはしこ名が書かれているだけ。だが、中には乙なものもある。

 勢は今場所からカバーを新しく紺色にした。贈り主の名は、折り返した中に「歌手 平原綾香与利」とさりげなく書かれてあった。「昔からファンでしたが以前、知人の紹介で知り合いまして。ちょうどカバーがボロボロで、その機会にいただきました」。昨年ゲストに呼ばれた東京・増上寺の節分で久しぶりに再会。座り心地の良さも手伝ってか、星が上がっている。

 石浦の黒色の座布団カバーには珍しく言葉が並ぶ。「栄光に近道なし」。昨年九州場所の新入幕の際、付け人2人に贈られた。言葉は、学生時代につくった野球のグラブに入れていた文字。それを見た付け人が引用した。「好きなアーティストの歌で、好きな言葉。うれしかったです」。

 これも折り返した中にあり、普段は目につかない。それでも、かみしめて座る。見えないところに、力がある。【今村健人】