競技者がひんぱんに使う言葉がある。野球なら「1試合1試合を大事に…」。ゴルフなら「目の前の1打に集中して…」。相撲なら「今日の1番に集中して…」。ごもっとも。その通り。しかし、その競技者がプロなら、誰もが使う決まり文句でなく、自分なりの言葉を使ってほしい。そう思ったりもする。

 秋場所の千秋楽で、久々に「へ~」と思う言葉を聞いた。「技術は絶対に負けてない」-。若い力士。西幕下3枚目木崎(24=木瀬)だ。

 西十両13枚目矢後に負けた。3勝3敗で勝ち越しがかかる一番だった。矢後は中大出身の元アマチュア横綱で187センチ、172キロの大型。木崎も名門日大相撲部で主将を務めたキャリアを持つが、現在の注目度では1学年下の矢後に一歩譲る。番付も劣るし、サイズも176センチ、138キロと及ばない。アマチュアでの対戦は「多分3戦全敗」(木崎)、プロでも2戦2敗となった。それでも「技術は負けてない」と言う姿がたのもしかった。

 論理的、具体的に説明できるタイプだ。「課題は多いやろうけど、来場所に向けて、特にコレっちゅうのは?」という、抽象的で荒っぽい質問に「…う~ん、足りない部分が多すぎてわからないです」と前置きして、こう答えた。

 「来場所どうこうじゃないですけど、体重を増やさないとダメですよね。(入門時は115キロで)今は138キロですけど、場所中にどうしても落ちる。最終的に145キロまで、と思うけど、スピードが落ちたらダメです。小さいですからね。時間はかかると思うけど」。ずっと昔から自分を省みて、自己分析を重ねたのだろう。だから、負け惜しみと取られかねない状況で口にした強気な言葉にも納得してしまう。

 昨年夏場所のデビューから9場所目で初の負け越しだった。目前まで迫っていた関取の座は一歩遠のいたが、十両目前で足踏みした先輩力士は多い。「負け越しですか。家に帰ったら、じわっと来るんでしょうね」。木瀬部屋の先輩、宇良のように土俵を沸かせる日が、きっと来る。そんな期待を抱かせる言葉だった。【加藤裕一】