11月13日は「いいひざの日」。力士は一般的に膝に負担がかかるため、持病を抱えていることが多い。元大関琴欧洲の鳴戸親方もその1人。両膝とも靱帯を痛め、特に右膝蓋(しつがい)骨脱臼は、引退の一因になった。引退後も階段の昇降も苦労するほど膝に痛みが残り、さまざまな治療に取り組んできた。それでも痛みはおさまらず、引退から約5年半たった今年9月、最先端の再生医療「幹細胞治療」に踏み切った。

関係者に東京・千代田区の「お茶の水セルクリニック」を紹介され、治療を始めた。まずは、へそ付近の皮膚を5ミリ切開し、少量の脂肪細胞を採取。約1カ月かけて治療の必要な数まで幹細胞を培養した。その後、増やした幹細胞を膝の関節に注入してもらった。鳴戸親方は「以前より痛みがだいぶやわらいだ。おかげで弟子たちの稽古も順調。今場所もまわしを締めて土俵に上がっています。順調に回復すれば、現役復帰もできそうなくらい」と手応えを口にしている。幹細胞治療は、幹細胞独特の動きにより、人間が持っている正常の機能に再生させるよう促す治療法。自身の体内から取り出した幹細胞を使用するため、リスクも少ないという。

鳴戸親方は17年4月に独立して鳴戸部屋を興して以来、自ら胸を出して弟子を育ててきた。稽古をつける時に膝を亜脱臼することが多かったが、今はその苦しみから脱出しつつある。部屋頭の三段目元林は、九州場所5日目を終えた時点で3勝0敗。序ノ口デビューから17連勝中でもある。近大出身の逸材は、スピード出世の真っただ中だ。

師匠が「いいひざ」を取り戻せば、さらに効果的に稽古をつけることができる。関取1号が誕生するのも、そう遠くはないかもしれない。【佐々木一郎】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)