今場所から三役呼び出しの次郎(59)が、結びの一番を含む最後の2番を呼び上げている。立呼び出しの拓郎(63)が不祥事をきっかけに退職したためだ。次郎は「まれに結びが不戦になると、最後の一番を呼び上げることはこれまでもありました。結びの一番は、気分的にいつもと違う感じがあります。まさかこういうことになるとは、思ってもいませんでした」と話した。

呼び出しのトップだった拓郎は10月の秋巡業中、客席で食事をしていた序二段呼び出しに「こんなところで食事をするな」と注意し、頭部を拳で1回殴った。さらに近くにいた幕下呼び出しに「兄弟子なんだから、ちゃんと見てやらんかい」と、背中を1回たたいた。2人にけがはなかった。幕下呼び出しが協会職員に暴力を報告して発覚した。

日本相撲協会が科した処分は、2場所出場停止。しかし、拓郎は退職の意思を固め、慰留を振り切って角界を去った。

退職が決まる前、拓郎から次郎に連絡があった。「九州は行けなくなるから、頼むな」。それきり、電話はない。退職届が受理されたことは、巡業部長の春日野親方(元関脇栃乃和歌)から聞いた。

拓郎に代わって呼び出しをまとめる立場になった次郎は九州場所前の土俵築の時、福岡国際センターの支度部屋に呼び出し全員を集めた。暴力はいけないことを再確認した。「今の時代、協会を挙げて暴力を追放しようと取り組んでいる。感情の高ぶりがなかったにせよ、こういうことはなしにしようと、確認し合いました」。

拓郎には世話になった。拓郎と同じ三保ケ関部屋に、3年遅れて1978年3月に入門。三保ケ関部屋の消滅にともない、2013年にともに春日野部屋に転籍した。40年以上の付き合いがある。「相撲界に入ってからの力士との生活、呼び出しの生活など、全部教えてくれました。すべて一緒でしたから」。そんな兄弟子が突然いなくなった。

拓郎の指導ははたして暴力なのか? 相撲ファンの間でも意見は分かれている。次郎が複雑な思いを口にすれば、暴力肯定と誤解されかねないため、多くは語らない。思いは胸にとどめ、土俵に上がっている。「(拓郎とは)これからまた話す時が来ると思いますよ」。そんな思いを知りつつ次郎の呼び上げに耳を傾けると、いつもと違って聞こえてくる。【佐々木一郎】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)