無観客場所を“観戦の達人”はどう見ているのか? 喜劇俳優の大村崑(88)。かつて栄養ドリンク「オロナミンC」のCMなど、テレビに映らぬ日はなかった。最近はNHKの大相撲中継。向正面の砂かぶりで、よく“出演”している。「今場所は5日、見に行く予定でした。テレビに映らんかったら『死んだんか思うた』とよう言われます」。“生存確認”の場がなくなり? 苦笑いした。

初観戦は4歳、父に肩車されていた。戦前の1936年(昭11)だから実に84年前。力士はもちろん、行司、呼び出しの着こなしまで楽しむ。大阪在住だから、特に春場所、また名古屋場所には足しげく通う。

「無観客。無人の劇場でやる、私らの通し稽古と似てますな。でも、幸せでっせ。テレビの向こうにファンがぎょうさんおるんですから」。テレビで見て、新たな発見もあった。「拍子木の音とか、普段はあんな聞こえへん。白鵬の“ふ~っ”ちゅう息づかいも聞こえましたな」。

今回はたまたまだ。「我々にとって今場所はいい思い出になりまっせ。これから先“あの時、あんなんやったなあ”と思い出すのが、きっと楽しおまっせ」。前向きにとらえ、89歳の春場所はまた砂かぶりで楽しむつもりだ。【加藤裕一】

大村崑(2019年1月12日撮影)
大村崑(2019年1月12日撮影)