今場所8日目のこと。幕内後半は西方力士が全員敗れ、誰も取材に応じなかった。コロナ禍にあるため報道対応はリモートのみ。東西の支度部屋を出たところにそれぞれモニターが設置されている。画面を通じてメディアの質問に応じるかどうかは、力士の判断に委ねられている。勝ってもしゃべらない力士もいる。

モニターの近くで、協会職員とともに力士に報道対応を促している担当の1人が、鳴戸親方(元大関琴欧洲)。事情を聴くと、仕事の難しさを口にした。「(力士)全員に声がけをしているが、強制ではないので3分の1くらいは取材に応じていない。負けた人の気持ちが分かるので、なかなか強くお願いできない」。現役時代、勝っても負けても口数が多くはなかった鳴戸親方は、力士の気持ちをおもんぱかった。

-もし現役力士だったら、リモート取材を受けますか?

「日によると思うが、会って話したほうが伝わるのでリモートは積極的に受けようと思わない。誤解を生んだり、ニュアンスがくみ取れない可能性もあるので」

対面での会話とは違い、互いの表情や空気感がリモート取材では読み取りにくい。ブルガリア出身の鳴戸親方が指摘する通り、特に外国出身力士にとってはやりにくさがあるのかもしれない。

-支度部屋に報道陣が入れた時は、負けた時でも質問される。この状況について、どう考えますか?

「記者の皆さんは質問することが仕事だと思っているので、当たり前だと思っている。ただ返答するかしないかは、力士の性格によるところが大きい。勝っても負けてもいろいろなことを話す人もいれば、勝っても多くを話さない人がいるように」

鳴戸親方のほかにも、3人の親方に、もし今現役だったらリモート取材に応じるかどうか、考えを聞いた。

元幕内天鎧鵬の音羽山親方は、YouTube「親方ちゃんねる」の中心メンバーとして軽やかなトークを展開している。現役時代は宇良に勝った際、映像分析が実を結んだことを明かし「宇良ビデオを見て研究しましたからね」と「宇良ビデオ」を連発して報道陣を笑わせた実績がある。

-今、現役だったらリモート取材に応じますか?

「受けますよ。でも自分は現役時代、取材していただく機会が少なかったので…。負けても(本場所の)前半だったらいいですけど、負けて(十両や幕下に)落ちる時はきついですよね」

元関脇栃煌山の清見潟親方は現役時代、負けるとめっきり口数が少なくなった。悔しさを強くにじませていたタイプだ。

-今、現役だったらリモート取材に応じますか?

「はい。自分は負けるとぶすっとしていたけど、しゃべるのも仕事のうちだと思っていましたから。聞かれたら必ず答えていましたよね? 取材を受けるのも仕事のうち。淡々と答えればいいと思います。お客さんから写真撮影やサインを頼まれた時も、場所入りの時は取組が控えているのでできませんが、帰りは必ず応じていました。負けた時は、あんな空気感を出しているにもかかわらず、よく来てくれたなと(笑い)」

最後は、元関脇安美錦の安治川親方。現役時代、勝っても負けても、気の利いたコメントで報道陣を手玉に取っていた。

-今、現役だったらリモート取材に応じますか?

「逆に、なんで応じないのかと思う。負けた時は『今日は負けたから明日頑張ります。これでいいですか?』と言って帰ればいい。明らかに変なことを書かれるなら別だけど、自分の名前を出して記事にしてくれるんだから。野球やサッカーに置き換えれば、負けた監督が何もしゃべらないで成り立つのかと言ったら違うでしょう。力士も自分のためだけに戦っているわけじゃない。こういう状況で本場所をやらせてもらって、お客さんにも来てもらっている。そこを考えれば、自分たちのすべき行動はみえてくるんじゃないかな」

8日目のことがあってから、気に懸けてくれる力士も増えてきた。個人的には、取材に応じるかどうかは力士の自由なので、決して無理強いするものではないと思っている。力士らしいおおらかなコメントが出れば、その横顔も書きたいし、無言のまま勝負に集中しているのなら、その一番にかける姿勢を伝えたい。ともにコロナ禍を乗り切りたい。【佐々木一郎】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)