スーパー王者内山高志(35=ワタナベ)が、日本人の世界王者で3人目となる10度目の防衛に成功した。東洋太平洋同級王者で同級7位のジョムトーン(タイ)と対戦。2回に右ストレートでダウンを奪い、1分15秒カウントストップによるTKO勝ちを収めた。35歳5カ月で、国内ジム所属王者の最高齢防衛記録も更新。陣営は次戦で海外防衛戦、統一戦などのビッグマッチを目指す方針だ。内山は戦績を23勝(19KO)1分けとした。

 拳が当たった瞬間「バコッ」という鈍い音が、4400人が詰めかけた会場に響いた。初回、1分50秒。内山はにらみを利かせてじりじりとコーナーに追い込むと、左ジャブでガードをこじ開けた。間髪入れず、太い右腕が汗を吹き飛ばしながら伸び切る。「久しぶりにフルでいった」。V3戦での負傷以来、ごまかしながらやってきた右拳。痛みがなくなり、本来の輝きを取り戻した。挑戦者は必死にこらえたものの、20秒以上も右目を開くことができなかった。眼窩(がんか)底骨折。試合は決まった。

 結末はすぐに訪れた。2回、序盤にボディーを攻めて相手の意識を散らすと、準備万全とばかりに仕留めにいった。わずかに目線を下げるフェイントで相手のガードを下げさせ、無防備となった顔面に拳をめり込ませた。「骨を殴ったなと思った。もう立てないのが分かった」。挑戦者はパンチを受けた瞬間に意識が飛び、ふらつくように腰から崩れ落ちた。わずか255秒、53発の衝撃だった。

 内山 世界的に有名ではない相手。はっきり勝たないと、東洋王者相手にこんなものかと思われてしまう。明らかに内山の方が強いという勝ち方をしないといけないと思っていた。区切りの10度目の防衛が出来て素直にうれしい

 「負けたくない」という思いでここまで来た。昨年末、拓大時代の後輩で元世界王者の八重樫東からモチベーションを保つ秘訣(ひけつ)を問われ、事もなげに言った。「だって趣味だから。負けたら嫌じゃん」。ボクシングが好き。だから、転倒しても拳を隠し、体重は年間を通して上下幅4キロ以内に保つ。最高のパフォーマンスを出すための高い意識が、日本人3人目の偉業につながった。

 大台到達で、具志堅用高氏の持つ13度の防衛記録更新にも期待がかかるが、内山に数字へのこだわりはない。試合直前の2日には、米ラスベガスで世界中の視線を集めたメイウェザー-パッキャオ戦があった。控室に戻ると「自分もああいうところで観客を熱狂させてみたい」と、あらためて強い海外志向を示した。WBC王者三浦隆司を含めた他団体王者との統一戦など、ビッグマッチ実現はファンの悲願でもある。底が見えない35歳。大好きなボクシングで輝き続けるため、内山は戦う。【奥山将志】

<内山高志(うちやま・たかし)記録アラカルト>

 ◆最長政権 在位期間は日本人歴代1位の5年4カ月。勇利アルバチャコフ(協栄)の国内王者記録にも27日と迫っており、今回の勝利で更新は確実。2位は長谷川の5年0カ月

 ◆最高齢防衛 35歳5カ月での防衛は、西岡の35歳2カ月を上回り歴代1位。30歳2カ月での王座奪取は歴代13位の高齢奪取だった

 ◆世界戦KO率(5戦以上対象) 82%で歴代1位。2位は山中の78%、3位は三浦と具志堅が60%、渡辺二郎の57・1%と続く。

 ◆世界戦KO数 9回となり具志堅に並び歴代1位。3位は渡辺二郎の8、長谷川、山中が7で続く。