ボクシングのWBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥(23=大橋)が、「無傷」でのV3を狙う。9月4日の同級1位ペッチバンボーン(タイ)との3度目の防衛戦(スカイアリーナ座間)に向け28日、横浜市内のジムで練習を公開。3試合連続のランク1位挑戦者との一戦に向け、負傷に悩まされてきた右拳を守るため、バンデージの巻き方を改善した。強化してきたディフェンスと合わせ、完封勝利に自信を見せた。

 井上は午後2時からの公開練習を前に、午前10時にジム近くの美容室を訪れた。試合前恒例の勝利の儀式。大胆にサイドを刈り上げ、「気分転換に」と薄い茶色に髪を染めると、試合モードにスイッチが切り替わった。入念な縄跳びで汗を出すと、父真吾トレーナーのミット目掛け、気持ちの乗ったパンチを打ち込んだ。ゴングまで1週間。「最高の仕上がり。減量も含めて不安は何もない」と万全の調整を強調した。

 明るい表情の理由は、調子の良さだけでない。これまで苦しんできた悩みにも光が見えた。14年末の試合で負傷し、手術も経験した古傷の右拳を守るため、バンデージの巻き方を変えた。専門家に相談し、ナックル部分を分厚くしてグローブと拳との隙間をなくし、かつ手首がぶれないようにテーピングでより強く固定する方法を取り入れた。

 効果は肉体的にも、精神的にも大きな影響を与えた。井上は「安定感が全然違うし、すごくしっくりきている。怖さを感じなくていいのは大きい」と手応えを実感。強打をなるべく避け、7~8割の力で戦う考えは変わらないものの「ここというところでは爆発させるし、もちろんKOも意識している」と力を込めた。

 守るのは拳だけではない。V2戦で打ち終わりにパンチを返された場面を反省。2階級上の現役世界ランカーらを相手にした約100回のスパーリングでは、ディフェンス面の確認に時間を割いた。V3戦のテーマは「相手のパンチを1発ももらわないこと」。世界王者として初めて地元の神奈川・座間市に凱旋(がいせん)するとあり、会場は超満員確実。不安の消えた井上が、さらに進化した姿でファンの期待に応えてみせる。【奥山将志】

 ◆井上の右拳の負傷

 ▼13年4月の日本ランク1位佐野とのプロ第3戦 3回に右ストレートが佐野の頭部に当たり、負傷。以降は左手一本で戦い、4回に左フックからの連打でダウンを奪取。最終10回にTKO勝ちした。

 ▼14年12月のWBOスーパフライ級王者ナルバエス戦 初回に放った右オーバーハンドが相手の頭部に当たり、負傷。2回TKO勝ちで王座奪取も、試合後に脱臼が発覚。15年3月に手術を受け、復帰まで1年間のブランクを作る。

 ▼16年5月のカルモナとのWBO王座V2戦 2回に右ストレートを相手のこめかみに当て、負傷。左手一本で戦い、最終回にダウンを奪うも、世界戦初の判定決着に終わる。