2年半前、故郷の岩手に戻り、焼き肉店店長として奮闘するボクシング元世界王者の佐藤洋太さん(32)は、ボクサーとしての後悔が、少しある。夢だった世界王者になった。だが、他の一流選手に目をやれば、その領域に届かなかったという思いは消えない。だから、店の名前は「チャレンジャー」。故郷の盛岡市で焼き肉店を営み、挑戦者として第2の人生を闘っている。

 現役時代は腕をぐるぐる回したり、わざとよそ見をしたりする変則的なスタイルが武器だった。相手の虚を突く作戦を重視していたが、「商売は、正統派で行こうと思って」。うまい肉、心を込めた接客が店の信条だ。

 プロ9年目の12年、WBCスーパーフライ級王者に輝いた。2度防衛したが、気持ちが切れた。「変に満足しちゃった」。13年5月の3度目の防衛戦で、TKOで敗れ引退。その後、岩手県で牧場を経営するスポンサーに入社を持ち掛けられた。「恩返しだ」。故郷へ戻り入社後の14年4月、感謝の気持ちを胸に店をオープンした。

 経理や仕入れ、接客など、経験したことのない飲食業の経営に今も頭を悩ませる日々だが、柔らかいメス牛の肉にこだわるなど、地道な努力でリピーターも増えている。「挑戦者の精神を忘れずに頑張りたい」。

 家族は妻と男の子3人。休日はスケートボードや家族との釣りを楽しむ。今は売り上げを増やし2号店をオープンすることで、家族、社長に恩返ししたいと思っている。

 その次の夢は、自分のジムを開くこと。「ボクシング、大好きなんですよ」。これからも挑戦は続く。