守るつもりはない-。ボクシングのWBC世界バンタム級王者山中慎介(34=帝拳)が2月28日、都内のホテルで12度目の防衛戦(2日、両国国技館)の調印式に臨み、挑戦者の同級6位カルロス・カールソン(26=メキシコ)にKO宣言した。日本歴代2位の世界戦連続防衛記録を支えるのは、あくまで攻め抜く気持ち。V9、V11戦のアンセルモ・モレノ(パナマ)との2試合におけるジャブ数の違いから、その「心」を読み解く。

 「もちろん、チャンピオンのプライドはある。でも、守るという意識はないですよ」。調印式を終えた山中は、リラックスした口調で勝負哲学の一端をのぞかせた。カールソンに並び立った会見では、「KOして、日本のみんなに喜んでもらいたい」。今回は国技館での開催。「相撲が盛り上がっていますが、それ以上の盛り上がりをみせたい」。堂々のKO宣言に攻め抜いてきた自負がこもった。

 興味深いデータがある。V9、V11戦で拳を交えたWBA王座12度防衛の最強挑戦者モレノ。2試合のラウンド平均ジャブ数を比較すると、第1戦が44・1回。第2戦は32・4回と極端に減る。大和トレーナーが理由を明かす。「白黒をはっきりつけたかったので、ジャブの数を抑えたんです」。2-1の判定勝ちだった初戦を受けての再戦。自らが望んだ変化だった。

 山中は「ジャブの数を増やせば勝てる」と初戦から確信したが、2戦目の選択は違った。同じサウスポーのモレノが前に重心を残す時は左ストレートを打ってこないと見抜くと、勝機を見た。相手の右ジャブに合わせ、いきなり「神の左」を打ち抜く。安全に距離感を測るジャブの数は減った。間合いが詰まりリスクもあったが、攻める気概を貫いた。結果、7回KO勝利。大和トレーナーは「そういう気持ちを持っているから防衛できる」と説いた。

 具志堅用高が持つ日本男子の世界戦連続防衛記録は13で、試合に勝てば王手となる。KOなら世界戦で9回目となり、内山高志の持つ最多10回に迫る。「毎試合、いつもチャレンジです」。攻めるからこそ、偉業に近づく。【阿部健吾】

 ◆山中慎介(やまなか・しんすけ)1982年(昭57)10月11日、滋賀・湖南市生まれ。南京都高1年で競技を始め、3年の国体で優勝。専大で主将。06年プロデビュー。11年11月WBC世界バンタム級王座。家族は夫人と1男1女。身長171センチの左ボクサーファイター。