IBF世界ミニマム級9位の京口紘人(23=ワタナベ)が4度目の防衛を狙った王者ホセ・アルグメド(28=メキシコ)を3-0の判定で下し、世界初挑戦で王座獲得した。9回にダウンを奪い、接戦をものにした。デビュー1年3カ月での王者誕生は、日本最速記録。小6でボクシングに転向した空手一家の末っ子。元世界王者の辰吉丈一郎にも指導を受けた「ダイナマイト・ボーイ」が頂点に駆け上がった。今回はダブル世界戦で、WBA世界ライトフライ級王者田口良一(30)は6度目の防衛に成功した。

 京口が京口らしい一言を放ったのは、勝利の会見の終わりだった。「いや~、鼻くそでしたね。全然満足できない!」。自分は強いと思えるかと聞かれると、大きく腫れた右頬を緩め、笑った。関西出身のしゃべり好きは、最短の階段を駆け上がった感想を、そう締めた。

 激しい接近戦だった。中1から2年間、大阪帝拳ジムで教えを受けた辰吉丈一郎の左ボディー。上体を少し左に倒して角度をつける武器。これまでのプロ7戦と同じくアルグメドに打ち込み続けたが、頭から突っ込んでくる王者に手を焼いた。仕留められない。中盤には右拳も痛めた。

 一進一退の攻防を破ったのは9回だった。ボディーを警戒させ続け、空いた顔面に左フック。「がむしゃらだった」。ぐらつかせ、最後は右でダウンを奪った。辰吉直伝ボディーが布石となり、決定打となった。

 辰吉と出会う前、弱さに向き合う日々だった。父寛さん(49)は空手の師範。兄、姉に続いて3歳で空手を始めたが、「強くなかった」。自身の初優勝は小3。「2人は20回以上。比べられない」。体が小さく、「保育園では親がいじめの心配をしていた」。小学校低学年の時には「ちび」という言葉に過敏に反応した。周囲は「一番センスがある」と評価してくれたが、体重が倍もある相手に勝てないのは無理もなかった。

 小6の冬、出合ったのがボクシングだった。階級制。「体のハンディがない」。のめり込んだ。「小4で自分が弱いと分かった。今も強いと思ったことはない。でも、弱いのを知っているから努力できる。劣等感が僕を強くしてくれた」。プロ入り後は、あえて重いグローブをつけて鍛えた。1日4回の計量も毎日。KO量産にも「僕はおごらない」と励んできた。

 愛称「ダイナマイト・ボーイ」は、ジムの先輩内山高志の「KOダイナマイト」から拝命した。この日は判定。試合後に先輩からねぎらわれると「鎮火しないように頑張ります」と誓った。辰吉と同じ8戦目で世界王者となったが、「今日みたいな試合をしてたら怒られる」と反省しきり。

 まだ「鼻くそ」。そう思えることも強さの源。「次戦、初防衛戦で(今日の気持ちを)しっかりぶつけます!」。ベルトを巻き、強さを追う。【阿部健吾】