棚橋弘至(42)が平成最後の1・4東京ドーム大会を勝利で飾った。IWGPヘビー級王者ケニー・オメガ(35)を下し、自身が持つ最多を更新する8度目の王座についた。3年11カ月ぶりにベルトを取り戻した。右膝の負傷を乗り越え、3年ぶりに戻ってきたドームのメインで40分近い大激闘を制し、新日本のエースとして存在を示した。

「やる力、残ってないわ…」と1度は勝利のエアギターを断った。しかし、棚橋は4万近い大観衆の声に応じずにはいられなかった。「もう帰ってこられないかと思っていた」という東京ドームのメイン。3年ぶりに立ったど真ん中で、ベルトを手にし、ギターをかき鳴らすしぐさ。そして、うれしそうにぶっ倒れた。

大会前からプロレスに対し異なる主張をぶつけ合ったオメガと、リングで約39分の死闘を繰り広げた。終盤、古傷の右膝を引きずった。体力は限界に。その中で代名詞のハイフライフロー2連発。それでも相手は耐え、くたばらない。ふらふらとなった体を抱えられ「片翼の天使」でトドメを刺されそうになっても、力を絞ってかわす。そして、最後は再びハイフライフローを決めオメガを沈めた。

通算8度目のベルト。それでも「初めて巻いたよう」と新鮮な喜びにつつまれた。昨年1月、右膝変形性関節症で1カ月欠場した。「ガタがきたなと思いました」。リハビリをしながら考えたのは、自分がこれからどんなプロレスをするか。膝は完治しない。若い時のような動きのキレはない。その中で「今の自分を受け入れる。慈しむ」と答えが出た。できる技を組み合わせ、見せることもできる。そしてまたプロレスが「楽しくなってきた」。

付け人をしていた武藤敬司に言われた言葉がある。「プロレスで一番難しいのは人を泣かすことだよ」。昨夏、G1クライマックスで優勝し、リングから観客席を見ると泣いている人がたくさんいた。喜怒哀楽そのものを技を通して見てもらい、涙を流してもらう。「これがプロレスの一番の醍醐味(だいごみ)」。エルボーに込めた怒り。膝が動かない悲しみ。この日も心の揺れを1つ1つの技に込めた。終わった後、観客席を見渡すと涙が見えた。自分のプロレスは間違っていないと確信した。

平成最後の1・4に「愛してまーす」の大合唱。来年の東京ドーム2連戦も「大丈夫。俺がなんとかします」。新日本の中心には、変わらず棚橋がいる。【高場泉穂】