元WBC世界バンタム級王者の“カリスマ”辰吉丈一郎が15日、50歳の誕生日を迎えた。09年3月にタイで試合を行ったのを最後に11年。現実的に試合を行う可能性がない今でも現役を続け、父粂二さん(享年52)と約束した「世界王者で引退」を追い求める。世間が新型コロナウイルスに苦しむ中、どんな苦境にもぶれない「浪速のジョー」の生き様は励みになる。

電話取材で辰吉は「50やからな。年とったなぁ思うし。世間的にいうたら若いかもしれんけど」。誕生日祝いについては「もう50やで。楽しみなわけないやん」と穏やかに語った。

節目を迎えても変わらない。「練習はずっとやってるよ。絶え間なく。意地を張ってるわけやなく、自分のしたいことをやってるだけ。好きやからやってるんや」。国内外を問わず今後、辰吉が試合を行える可能性はほぼない。それでも辰吉は戦い続ける。「自分の目標に向かってやっている。その答えは自分にしか分からん。自分の人生は自分のためにあるんやから」。

男手ひとつで育ててくれた父の年齢に近づいてきた。「父ちゃんとは違うしな」。ただ、粂二さんとの約束は心に刻まれたままだ。

亡くなる前の粂二さんから「(最初に当時最速の8戦目で世界王座を奪取した)リチャードソンに勝って、辞めてたらよかったんや」と何度も聞いた。決められたルール、周囲の視線や声などかまわず、己を貫く。ジョーの生き様はやはり格好いい。【実藤健一】

◆辰吉丈一郎(たつよし・じょういちろう)1970年(昭45)5月15日、岡山県倉敷市生まれ。4戦目で日本バンタム級王者、8戦目で当時日本選手最速の世界王座獲得。引退危機を乗り越えるも薬師寺との世紀の王座統一戦で判定負け。スーパーバンタム級に上げるも連敗で迎えた97年11月、バンタム級に戻してのシリモンコン戦で劇的勝利。2度防衛後、ウィラポンに敗れて陥落。1度は引退表明も撤回し、タイで2戦。戦績は20勝(14KO)7敗1分け。次男寿以輝は13勝(9KO)無敗で日本スーパーバンタム級8位。