WBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(31=Ambition)が、世代交代を阻止するV2を飾った。日本人2人目の4階級制覇を狙った同級1位田中恒成(25=畑中)と対戦。8回1分35秒、TKO勝ちで、プライドを示した。9度目の大みそかで国内は負け知らずの8勝目となり、日本人の世界戦最多勝利を17に伸ばした。2021年こそ海外、統一戦のビッグマッチへ挑む。

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新型コロナウイルス感染症に振り回された20年も、井岡が最後を締めた。5、6回にダウンを奪い、8回に左アッパーを見舞い、田中が倒れそうになったところをレフェリーが止めた。貫禄を示した王者は「格の違いを見せると言い続けてきた。口だけで終わるわけにはいかなかった。(田中の)速さは前から分かっていたが、さすがの実力だなと思った。(ダウンを奪ったシーンは)タイミングで、狙ったパンチでも何でもない」と振り返った。相手をしっかりたたえ「ディス・イズ・ボクシング」と、競技の魅力もしっかりアピールした。

46度目の日本選手対決で初の複数階級制覇王者同士。世紀の一戦ともいえたが、井岡にはルーティンと言える大みそかの戦い。負けは18年に4階級制覇に挑戦した唯一海外開催のマカオだけ。国内では過去7勝(5KO)の晴れ舞台で、きっちり大トリを飾ってみせた。

「ビッグマッチではない」と言ってきた。同じミニマム級からスタートした田中。すでに2階級を制した世界王者だった13年の夏、まだ高3だった相手とスパーリングした。田中は「強かった」と強烈な印象が残るが、井岡は記憶にもなかった。

挑戦者田中のほぼ倍の中身の濃い27戦をこなしてきた。1度は引退、2度苦杯も喫した。日本人相手は八重樫と激闘を演じた2団体統一戦以来8年ぶり。実力差の部分を問われると「本質的に持っているものが違う。すべて。レベル、格が違う」と言い続けてきた。

10月まで実戦練習からは離れ、ピラティスに週1回取り組んだ。頭と体を連動させ、筋肉を意識して使うことで、試合で無意識でも瞬発的に力を引き出せるという。女性向けと思われがちだが、発案者ピラティス氏は元ボクシング指導者と知り、意欲は増した。

11月からスパーに入ると、同門となった元世界王者比嘉らと約100回をこなし、手応えも得ていた。コロナ禍で恒例の米ラスベガス合宿には行けなかったが、オンライン指導を受けた。そのサラス・トレーナーが11月末に試合のためロンドン入りした際に感染が判明したが試合には間に合い、心強いチーフセコンドでリードしてくれた。

WBC王者ファン・エストラーダ(メキシコ)と、WBA王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が、3月に統一戦を予定している。今度こそ現役復帰の目的である海外ビッグマッチを実現したい。世代交代、下克上を阻み、21年こそ海外へ打って出る。

◆井岡一翔(いおか・かずと)1989年(平元)3月24日、大阪・堺市生まれ。興国高で史上3人目の高校6冠を達成。東農大2年中退で09年プロデビュー。11年に当時日本最速7戦目でWBC世界ミニマム級王座、12年にWBAライトフライ級、15年に18戦目の当時世界最速でWBAフライ級王座獲得。17年に引退も18年に復帰。昨年再挑戦でWBOスーパーフライ級王座を獲得し、日本初の4階級制覇達成。164センチの右ボクサーファイター。家族は夫人と1男。