「三沢の方舟(はこぶね)」が船出する。全日本プロレスを退団した三沢光晴(37)は16日、7月1日にこけら落としの東京・有明のプロレス会場「DIFFER(ディファ)有明」で会見し、新団体旗揚げを明言した。全日本に退団届を提出した選手24人、フリーの池田大輔(32)レフェリーのマイティ井上(51)の26人が会見に同席。「この仲間と理想を求めていく」と宣言した三沢の新団体の名称として「NOAH(ノア)」が有力候補に上がっている。

 

 晴れやかな表情だった。多くの呪縛(じゅばく)から解き放たれて、三沢の顔には充実感と将来への希望がみなぎっていた。100人を超す報道陣、4台のテレビの前で、時折笑顔も見せた。まっすぐ前を見据えて決意の固さを言葉にする。「全日本の伝統と私がやろうとする理想の間にギャップを感じ、このまま私の理想を貫くと馬場さんのつくったプロレスらしさを壊してしまうことになると思い、退団を決意しました」。言葉はよどみなかった。

 希望に満ちた三沢の船出に同乗した選手は、川田、渕、モスマン、馳を除く24人。フリーの池田、マイティ井上レフェリーも三沢の船に乗り込んだ。馳に関して三沢は「(選挙に)当選することを祈るだけ」と笑顔を交えて話したが、関係者によると馳も三沢の理想に賛同する意思を表明している。「ここにいるみんなは自分の意思でもっともっといいプロレスをつくろうとしてくれる仲間。ここにいるメンバーと新団体をつくり、やっていきたいと思います」。8月上旬、ディファ有明が有力とされる旗揚げ戦へ、三沢の意思は揺るぎない。

 新団体名について三沢は「まだ決まっておりません」とだけ話した。実際、名称はまだ検討段階で、三沢自身さまざまな候補を上げている状況。その中には今回の一連の行動を象徴する「NOAH(ノア)」というものもある。多くの選手を乗せた三沢の方舟は、全日本の伝統という洪水にのみ込まれることなく、理想に向かってこぎ出そうとしている。

 今後は早急にディファ有明内に仮事務所を開設して実務にあたり、7月中には都内に新事務所を設立する。「ファンが望むファイトスタイルは変わらないと思うし、それ以上のファイトを見せられると確信しています」。大海原に飛び出す男たちは、三沢のかじ取りで熱い戦いを繰り広げていく。

 

 ◆三沢に聞く◆

 ―今後の予定は

 三沢

 旗揚げ戦は早ければ8月とみています。10月くらいからはスケジュールを組んで巡業という形にもっていきたい。

 ―退団の理由は

 三沢

 時代に沿ったというか演出、その他もろもろを今風に若者向けにやりたかった。でも、ファンからも全日本らしくやってくれというのもあったし、それなら一から自分でやろうという部分です。

 ―目指すものは

 三沢

 抽象的になりますが、選手とファンがどっちも楽しんでいけるプロレスを目指していきたい。

 ―他団体との交流は

 三沢

 現段階では全然考えておりませんが、はっきり言えば全日本のころよりはもっと前向きに考えられると思っています。

 ―川田選手に対して

 三沢

 お互い子供じゃないんで、己の道は己で貫けばいい。川田の方でそう決めた道ならば、最後まで頑張ってほしい。

 ―馬場さんに対しての心境は

 三沢

 本当にお世話になって感謝しています。一からプロレスを教えてくださった方ですし、感謝という一言しかない。このままボクらが試合を頑張れば、見ててくれれば分かってくれると思います。(2000年6月17日付紙面から)