<新日本:東京大会>◇3日◇後楽園ホール◇2025人

 IWGPヘビー級王者棚橋弘至(34)が、涙のV2で被災地にエールを送った。メーンで永田裕志(42)を相手に、2度目の防衛戦に臨んだ。ミドルキックを軸にストロングスタイルで押してくる挑戦者に、序盤は防戦一方の展開。ハイフライフローもキックで迎撃され、絶体絶命のピンチに見舞われた。

 そんなときに救われたのが、大観衆のコールだった。棚橋が追い詰められると、会場が一丸となって「棚橋!

 棚橋!」の大合唱を起こした。2月の宮城・仙台での初防衛戦のような一体感。これに王者が応えないわけがない。30分すぎ、永田が仕掛けた岩石落としに、空中で体をひねって抵抗。チャンスとばかりに、ハイフライフロー2連発で畳み掛ける。最後は片エビ固めで、35分30秒の熱戦にピリオドを打った。最近では自分へのコールを要求するたび、相手選手への声援が大きくなることも多かった。東日本大震災で国中が沈むご時世で、「いじられヒーロー」は真の英雄になった。

 試合後はリングを1周し、笑顔のファンに勝利を報告した。仙台と同じ風景だった。あのとき、リングサイドでほおにキスをしてくれた少女も、肩に乗っかってきた少年も、今は被災地で苦しんでいるかもしれない。そう思うと、心が痛んだ。だが、王者だからこそ、ふさぎ込んでいられなかった。「こういう状況だから、元気を出したいじゃん。これが俺なりに表現するエールです。あのとき(仙台で)に応援してくれた方々がいるから、今がある。俺も元気を出していくから…みんなで立ち上がろう」。ファンの前ではこらえていた涙が、リングを下りると自然にあふれ出した。泣きながら、必死にほほ笑んでいた。