<プロボクシング:WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦>◇10日◇東京・代々木第2体育館

 王者西岡利晃(33=帝拳)が、自慢の左で挑戦者のアゴを粉砕した。2階級制覇を狙うイバン・エルナンデス(26=メキシコ)に対し、3回に強烈な左フックを浴びせると、相手陣営が下あご骨折で棄権。3回終了TKOで3連続KO防衛に成功した。同門のWBA世界スーパーフェザー級王者ホルヘ・リナレス(24)がまさかの1回TKO負け。その衝撃直後の重圧もはねのけ、次戦はいよいよラスベガスで2階級王者ラファエル・マルケス(34)とのビッグマッチの決戦交渉に入る。

 「ガツンと入った」。西岡は確かな手応えを感じていた。3回中盤。エルナンデスが右フックを空振りしたところへ、強烈な左フックを見舞った。見事にアゴを捕らえた。「思い切り効いたと思ったのに倒れない。おかしいと思った」という、こん身の一撃だった。

 ダウンこそ奪えなかったが、その効果は強烈で、数十秒後には答えが出た。エルナンデスはコーナーに戻ると「アゴが痛い」と訴える。セコンドが「口を開けろ」と言ったが、アゴが動かない。陣営は骨折の疑いがあるとして、レフェリーに棄権を申し出た。試合後には病院に直行し、骨折との診断を受けた。

 8戦全勝だったメキシコ人に対し、今度はアゴを砕いた。06年11月のラスベガスでの試合からメキシコ製グローブを使っている。これで8連勝して7KO。「すごい。殺人グローブですよ」と笑った。すぐに「だから、試合に集中できるんです」とも続けた。

 鮮やかとはいかなかったが、自慢の左の力を見せつけた。日本人世界王者としては史上4人目となる3連続KO防衛。具志堅、渡辺、長谷川と名だたる王者に肩を並べた。前回の24年ぶりとなった海外防衛に続いて、また勲章を手にした。

 かつてない衝撃の重圧がかかっていた。同僚リナレスがまさかの1回TKO負け。自らの試合直前にボクシングの怖さを知らされた。さらにゴング時間も30分早まった。入場すると「雰囲気があまりよくないと思った」という。2回にバッティングで減点もとられていた。

 5度目の挑戦でようやくベルトを手にした。修羅場を知る西岡は試合に集中し、冷静だった。「落ち着いて、よく見ていった。相手パンチを見切るのに戸惑ったが、左ボディーも右ジャブも入りだした。これからだった」。文句のない勝利にも観客に手を合わせた。「すっきりしない内容で申し訳ない」と話したが、骨折の疑いのアナウンスに観客も納得した。

 この日の試合はメキシコでも中継された。元2階級王者マルケスとのビッグマッチへ、最後の関門も突破した。「準備もやる気もある。ワクワクする試合をしたい」。33歳のパパはまだまだ進化する。次は夢の舞台ラスベガスでそれを証明したい。【河合香】