<プロボクシング:WBA世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦>◇2日◇東京・後楽園ホール◇観衆2050人

 在日韓国人3世の李冽理(28=横浜光)が「足」で大金星を挙げた。世界初挑戦の李が、WBA世界スーパーバンタム級王者プーンサワット・クラティンデーンジム(29=タイ)に3-0の判定勝ちした。序盤からアウトボクシングで王者を翻弄(ほんろう)。現役時代に「名刀正宗」と言われたサウスポーで人気を博し08年に死去した関光徳前会長(享年66)さながらの「左」でポイントを重ね、4年間負けなし、日本ジム所属選手2連勝中、2階級制覇の無敵王者を崩した。李の戦績は17勝(8KO)1敗1分け。

 勝利の瞬間、李は声にならない雄たけびを上げた。大歓声の中、人目もはばからずに涙した。勝利の実感はあったが、2階級制覇王者からの大金星に「人生のすべてを懸けてリングに上がった。頭が真っ白で…何か分からない」と表情は硬い。腰に巻かれたベルトを見つめ「ちょっと重すぎます」と、ようやくはにかんだ。

 横浜光ジム伝統の「名刀正宗」がボクシングの聖地で抜かれた。08年6月6日、関前会長がくも膜下出血で死去した。関前会長は現役時代は「名刀正宗」と呼ばれたサウスポーからの強打で人気を博し、引退後は元2階級制覇王者畑山隆則氏とWBA世界ミニマム級7度防衛の新井田豊氏の名王者を育てた。

 その関前会長は死去3日前にミットを受けた後、ジムで倒れた。その相手が李だった。プロ入りを薦めてくれたのも、プロの心構えを教えてくれたのも関前会長だった。「努力なしではプロになる資格はない。強くなるのは自分次第だ」。

 恩師の言葉は常に心にあった。1階級下げた今回は減量が1・8キロも多く強いられたが「コツは我慢」と耐え抜いた。この日も王者のプレッシャーに驚きつつ「体力がもつか心配だった」と言うほど足を使い、意表を突いて打ち合いも演じた。足の裏の皮はずるむけになり、試合後は足を引きずりながら控室へと戻った。「右アッパーと右ストレート、あとは相手が出てきたところに左ジャブが当たった」。世界に5度挑戦し頂点に立てなかった恩師の夢を、右利き最後の愛弟子が根性でかなえた。

 08年には、もう1人の恩人もがんで亡くしていた。父吉春さん(享年62)だった。2人のことを聞かれると「関前会長とお父さんのお墓にベルトを持っていきたい」と声をつまらせた。次戦については「人生最大のイベントと思ってました。今は取ったのが信じられないところなので、考えられないです」と困惑した。大仕事を、李がやり遂げた。【浜本卓也】