<ゼロワン:10周年記念興行>◇6日◇東京・両国国技館

 05年に死去した橋本真也さん(享年40)の長男大地(18)が、大善戦のプロレスデビューを果たした。ゼロワン10周年記念興行が6日、東京・両国国技館で行われ、大地は父と闘魂三銃士の盟友だった蝶野正洋(47=フリー)と対戦。父親をほうふつとさせる空手仕込みの左ミドルキックで、蝶野を何度ものけぞらせた。試合はSTFでギブアップ負けしたが、父の生きたリングで、後継者の資質を示した。

 破壊王の忘れ形見が、力強い第1歩を踏み出した。父のテーマ曲「爆勝宣言」の旋律に、橋本コールが乗ると、約1万人をのみ込んだ両国のボルテージは最高潮に達した。真っ赤な光に照らされた赤コーナーから、大地は蝶野の待つリングにゆっくり歩を進める。形見の鉢巻きを巻き、コスチュームは父と同じデザインのもの。あえて父の存在を背負い、重圧を感じながら、リングに上がった。

 父譲りの気迫で蝶野のほおを張り、スタンドをどよめかせた。胸には容赦なく左ミドルを蹴り込む。6発、7発、8発…。ズルズルと腰を落とす蝶野に、さらに前蹴りで追い打ちをかけた。相手がロープへ走ると、カウンターの浴びせ蹴りを合わせた。

 父真也さんをほうふつとさせる豪快なキックの数々は、「黒のカリスマ」を本気にさせた。場外で脳天くい打ちを食らうと、リング上でさらにもう1発。最後はSTFと畳み掛けられ、ギブアップ負けした。それでも、信じて進んだ道に間違いはなかった。「父が聞いているか分からないけど、やっとここまできました」。天国の父に、リング上からデビューを報告した。

 父は05年7月、脳幹出血のため志半ばで倒れた。そんな父が旗揚げしたゼロワンを、大切にしたかった。大地がプロレスラーになる決意をしたのは、葬儀の日だった。大粒の涙とともに、直感的に強い意志が宿った。「遺志を継がなきゃいけない」。昨年夏、頭を丸刈りにしてゼロワンの門をたたいた。団体スタッフ総出の厳しい強化計画に耐え抜き、この日を迎えた。

 真也さんとともに「闘魂三銃士」と呼ばれた蝶野、武藤がこの日、新たな「橋本」の名の下に再集結した。大地は蝶野から試合後、「オヤジの大きい山を越えないといけない。それを登ってから、自分の山をつくればいい」と激励された。テレビ解説を務めた武藤敬司からは、「大地、次は俺とだ!」と宣戦布告され、「今はまだ考えられない」と苦笑いした。

 父の存在こそが、これからのライバルになる。「人から見たら、僕は橋本真也とダブると思う。でも、僕からしたら、父は別の存在なんです」。父が生きたリングで、大地は自分なりの足跡を刻んでいく。休みも、終わりもない戦いが、幕を開けた。【森本隆】