<DREAM>◇29日◇さいたまスーパーアリーナ◇バンタム級日本トーナメント

 「闘うフリーター」所英男(33=リバーサルジム武蔵小杉

 所プラス)が結婚で復活した。バンタム級準決勝で山本篤(30=KRAZY

 BEE)に判定2-1の僅差で競り勝ち、今成正和との決勝(7月16日、有明コロシアム)に進出した。1回戦で前田吉朗にTKO勝ち。山本戦は寝技の応酬の接戦になったが、積極的に攻めてポイントを稼いだ。2月に元アイドルで構成作家の池上奈々さん(31)と結婚。一時は不振にあえいだ男が、初のタイトル獲得へ王手をかけた。

 勝ち名乗りを受けると、所は思い切り両腕を突き上げた。目頭には熱いものが込み上げる。プロファイターとなって最少軽量の61キロ級で、初めて体力の消耗が激しい1日2戦のサバイバルマッチを乗り切った。「本当に勝ってうれしかった。集中力と気力の戦いでした」。世界大会への出場権とともに、念願の日本王者へ王手をかけた。

 2月に奈々夫人と結婚し、競技生活の環境も大きく変わった。川崎市中原区内にジムを新設し、6月12日にオープン予定。女性が入会しやすいよう、観葉植物を置くなど緑色で統一した内装も夫婦で話し合って決めた。練習の合間に清掃業のアルバイトをし、風呂もない6畳ひと間で寝起きしたころとは違う。自分の城に腰を据えて調整を重ねた。体調に合わせて、好物の鍋や魚料理を振る舞ってくれる愛妻のためにも、負けるわけにはいかなかった。

 ジムの社長は夫人で、所に肩書はない。「ジムの社長は妻で、僕は(客を呼べる)ミッキーマウスですから。ジムに来てくださる方のためにも勝たないと」という。背負うものが増え「ベルトをかけた試合があと何回あるのか。最後になるかもしれないし、優勝したい」と闘志が湧いた。

 1回戦の前田戦では力が入ってバッティングやローブローの反則を犯した。準決勝の2回にはキックの連打を浴びせ、グラウンドで相手と何度も体勢を入れ替えながら腕を取りに行った。

 05年7月のHERO'sでアレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラを倒し、同年末にはホイス・グレーシーと引き分けるなど脚光を浴びた。だが、08年9月のDREAMミドル級GP決勝で、この日対戦した山本篤に判定負けを喫して以降スランプに。同年末には右腕を骨折するなど、最近の戦績は2勝6敗と苦しんでいた。「以前にやられた山本選手を相手に、成果を出せたのがよかった」と自身の成長を感じた。自分のためだけに戦ってきた男が、ひと皮むけてチャンスを手にした。【山下健二郎】