<プロボクシング:WBC世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦>◇10日◇東京・後楽園ホール

 WBC世界ミニマム級王者の井岡一翔(22=井岡)が、試練の初防衛戦を突破した。指名挑戦者の同級1位フアン・エルナンデス(24)を相手に序盤からペースを握り、最大7点差の3-0判定で完勝。宣言していたKOは逃したが、2週間前に誕生日だった父一法トレーナー(45)に最高のプレゼントを届けた。当面は王座返上せず、次戦は年末にも予定される2度目の防衛戦に向かう方針だ。井岡の戦績は8勝(5KO)。エルナンデスは18勝(13KO)2敗となった。

 苦しんで、井岡家伝統のベルトを守った。判定を聞いた瞬間、重圧から解放された井岡は両手を突き上げてガッツポーズ。父一法氏に肩車されると、ようやく笑顔が広がった。

 井岡

 相手は強くてしぶとかった。攻撃がワンパターンになったし、余裕も正直なかった。豪快にKOしたかったけど、途中から勝ちに徹するのが精いっぱいになった。(自己採点は)70点くらい。

 王座獲得より難しいと言われる初防衛戦。プレッシャーに襲われた。本来は1階級上のライトフライ級。過酷な減量の影響もあり、序盤は硬かった。一法氏は「やっぱり初防衛戦だからでしょう。減量がきついから足の運びもよくなかった」と厳しい顔で振り返った。

 1回には左を被弾してぐらついた。10回にはアマ時代から113戦目で初めて目の上を負傷。それでも中盤から攻めの引き出しを増やし、エルナンデスを防戦一方に追い込んだ。東農大中退までの2年間を過ごした「第2の故郷」東京でのプロ初試合。後楽園ホールでの関東大学リーグ戦は10戦全勝の相性のよさも生かした。

 「歴史に名前を刻みたい」との野望がある。将来の目標は世界でも現在10人しか達成していない世界4階級制覇。一法氏は「今回は本当はランキングが下の方の相手でもよかったけど、一翔が強い相手がいいって言うから」と明かす。あえて強敵を挑戦者に指名し、苦しみながら退けた。

 勝利直後のリング上では自らマイクを持って「遅くなりましたが、お父さん、誕生日おめでとう!」と叫んだ。勝ったら7月27日に45歳の誕生日を迎えた父に向け、言うと決めていた。「ずっと練習だったし、当日はそんな言葉が言えなかったから」と少しはにかんだ表情を見せた。

 王座返上の可能性について言葉を濁したが、陣営は当面ベルトを保持する方針。ただ減量も苦しく、近い将来の階級アップが濃厚だ。叔父の弘樹氏(井岡ジム会長)はWBCミニマム級王座を80年代後半に2度防衛。そのDNAを有したサラブレッドが、これからもボクシング界の中心を担っていく。【大池和幸】