<プロボクシング:WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦>◇6日◇東京国際フォーラム

 WBC世界スーパーフェザー級王者の粟生隆寛(帝拳)が28歳の誕生日に、3度目の防衛を飾った。指名挑戦者の強豪、同級1位ターサク・ゴーキャットジム(30=タイ)に3-0で判定勝ちした。昨年11月の前戦は判定勝利も調整ミスで大苦戦。今回は減量から調整法をすべて見直した。相手の研究も徹底するなど、天才肌の男が初めてがむしゃらになった。この日も最後までKOを求め、大差判定勝利につなげた。完全復活の勝利で、WBA同級王者の内山高志(32=ワタナベ)との団体王座統一戦の夢も広がった。

 最後まで打ち合った。ポイントでは大差でリードした最終12回。粟生はリスクを背負って前に出た。「最強の1位の選手だからこそ倒したかった。お客さんはKOを楽しみに来てる」。攻防ある戦いに、かつて「安全運転」と揶揄(やゆ)された姿はなかった。

 昨年11月の前戦は、調整失敗で不本意な内容だった。人生で最も悔しい勝利に、ボクシング生活の変革を決意した。減量は期間を3週間から6週間に延ばし、健康機器大手タニタの社員食堂の健康食メニューも導入。計量直前まで練習ができるように絶食は封印。少ない食事で満腹になるように1口100回かんで食べることも心掛けた。

 気持ちの変化も大きかった。3歳から教わった父広幸さん(52)から「井岡選手とか、若い選手がどんどん出てくる。このままでは終わるぞ」とカツを入れられた。高校6冠→日本王者→世界王者と順風にきたエリート。相手の研究は一切しなかった天才肌が、今回はターサクの映像を何度も見た。「常に相手の顔が頭に浮かぶほど研究した。いまさらですけどね」となりふりかまわず勝利だけを求め、圧勝につなげた。

 3度目の防衛成功で、帝拳ジムの本田会長も年内のWBA王者内山との団体王座統一戦にゴーサインを出した。「ボクシング人気はあるとはいえない。ファンの望むカードを実現して、ボクシング界を盛り上げたい」とビッグマッチを見据えた粟生。「僕はまだこんなもんじゃない」。「脱天才」で一皮むけた男は、どこまでも貪欲に、理想の王者像を求めていく。【田口潤】

 ◆粟生隆寛(あおう・たかひろ)1984年(昭59)4月6日、千葉県市原市生まれ。3歳からボクシングを始める。習志野高では史上初の高校6冠を達成。アマ戦績76勝(27KO)3敗。03年9月プロデビュー、07年3月に日本フェザー級王座獲得。08年10月にWBC同級王者ラリオスからダウン奪うも判定負け。09年3月に再挑戦で王座獲得も同年7月の初防衛戦でロハスに判定負けして王座陥落。10年11月にWBCスーパーフェザー級王者タイベルトを下し、世界2階級制覇。身長169・5センチの左ボクサーファイター。