<プロボクシング:WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦>◇8日◇横浜文化体育館

 マジカル・ボックスの真骨頂だ!

 WBC世界スーパーフライ級王者の佐藤洋太(28=協栄)が、持ち前のトリッキーなボクシングで最強挑戦者に圧勝した。リング内を変幻自在に動き回って、同級1位シルベスター・ロペス(24=フィリピン)を終始ほんろう。拳を回しながら打つ「ぐるぐるパンチ」を披露するなど、要所で有効打を決めて、ジャッジ1人が10ポイント差をつける大差判定勝ち。ファンからの公募で決まった「マジカル・ボックス」の愛称通りのスタイルで、初防衛に成功した。

 緊迫のゴング前だった。佐藤はリングサイドにいたWBC世界バンタム級4位の亀田和毅と父史郎氏の姿を確認した。最強挑戦者ロペスを前にしながら「試合後(亀田に)リングに上がられて、メンチ切りとかされちゃうのかな。どうしよう」と考えるゆとりがあった。試合後は「今思えば、勝つ絵が見えていた。落ち着いていた」と心理状況を分析した。

 精神的な余裕が「マジカル・ボックス」の愛称通りのスタイルを導き出す。フェイントを駆使し、前後左右に動き回って、ロペスの攻撃をかわす。ノーガードで首振りの挑発で、正統派スタイルの相手心理を揺さぶった。心身ともにほんろうさせ、右拳をぐるぐる回しながらの右ストレートなど、有効打を的確にたたき込んだ。1人のジャッジが10ポイント差の完勝。「ロペスはいい人だから基本通りのボクシング。僕はひねくれて、ねじ曲がってますから」と無傷の顔を緩ませた。

 変幻自在なボクシングの裏には、トリッキーな練習法とスケボーがある。普段からサンドバッグ打ちなどはほとんどせず、実戦的なスパーリングのみ。試合前の約2カ月で、普通の選手の約3倍となる約300ラウンドをこなす。さらに中学1年から続けるスケボーはプロ並みの技術を持つ。簡単にジャンプして板を回転させるなど反射神経の良さが防御に生きている。

 世界王座奪取後も、警察官から2度も職務質問された。午前中は時給1000円のガソリンスタンドのアルバイトをこなす。生活のリズムは変えなかった。練習時のヘッドギア、グローブも4回戦ボクサーからのお下がりのままで、シューズも800円の格安を使う。世界王者になっても何も変わらなかったが、精神面だけは違った。

 茶髪とピアスの不良だった高校時代は先生から目の敵にされた。世間を見返すための、唯一の場がボクシングだった。プロに入っても、反骨精神をリングにぶつけてきたが、世界王者になると変化が生まれた。「責任感が増した。ジムの色は王者が決める。負けるに負けられないし、新しい世界王者像をつくりたい」。王者の自覚が、リスクを冒したトリッキーなスタイルを支えていた。

 初防衛戦で指名挑戦者をクリア。次戦は10月、地元岩手を含む東北での防衛戦が有力だ。相手はWBA同級王者テーパリット・ゴーキャットジム(タイ)、WBC同級6位の赤穂亮(横浜光)、観戦に訪れた亀田和らも候補。「誰でもいい。(金平)会長から言われた相手と戦うだけ。まあ夏は遊びますよ」。元ヤンキーが長期防衛を予感させる世界王者に成長した。【田口潤】

 ◆佐藤洋太(さとう・ようた)1984年(昭59)4月1日、岩手県盛岡市出身。マイク・タイソンに憧れて中学3年でボクシングを始める。盛岡南高3年時の国体3位、インターハイ5位。04年2月のプロデビュー戦は黒星。10年5月日本スーパーフライ級暫定王座獲得。同9月に正規王座に。昨年11月は同級3位大庭健司を4回KOで下し5度目の防衛に成功。今年3月、WBC世界同級王座を獲得。プロ戦績は25勝(12KO)2敗1分け。171センチの右ボクサーファイター。