<プロボクシング:WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦>◇8日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 王者の井岡一翔(24=井岡)が、鮮やかなKO劇で初防衛に成功した。同級2位ウィサヌ・ゴーキャットジム(29=タイ)を9回2分51秒、右ボディーで倒した。今年から導入した加圧トレーニングでパワーアップしたパンチで圧倒し「伝説のボクサーになりたい」と宣言。力を見せつけ、今後は日本人初の無敗3階級制覇、さらに夢の4、5階級制覇を目指していく。井岡の戦績は12戦12勝(8KO)となった。

 強烈な一撃だった。9回だ。井岡の右ボディーが、相手の腹をえぐった。挑戦者は一瞬でマットに崩れると、大の字になった。もう立ち上がれない。交際中のタレント、ソンミが見守る中、衝撃的なKOでデビュー12連勝を飾った。

 リング上のインタビューでは「かっこよかったですか~」と声を張り上げた。直前にKO勝ちした同僚の宮崎と同じ言葉に、会場から大歓声が起こった。「控室で見て悔しかったんで、絶対勝って言ってやろうと思ってました」と笑った。

 防御を固めるサウスポーに対し、序盤から左高速ジャブでリズムをとった。ボディーからストレート、フックと多彩に攻めたが、なかなか決定打が出ない。それでも「効いていたのは分かっていた」と焦らない。最後はガードが空いた腹を狙いすました。

 強さは、さらに増していた。今年から加圧式トレーニングを導入。人工的に筋肉疲労状態にしてから、軽い負荷をかけて筋持久力をつけた。練習でパンチを受ける父一法トレーナーは「今までは僕のひじに伝わっていた力が、背中や肩甲骨まで響くようになった」と、進化に驚くほどだった。

 視野も広い。興国高時代にレフェリーとして井岡の試合を裁いた大阪・中央高の佐々木靖孝教諭(56)は言う。「打ち合いになって私がブレークに入ろうと動いた瞬間、井岡くんは動きを緩めてました。レフェリーの次の動きが分かるくらいだから、相手の動きも予知できる」と振り返る。

 日本ボクシング界の主役を担っている自負もある。現在、国内にはフリーの高山勝成(29)も加えると世界王者が8人いる。他にも、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(27)がプロ転向し、20歳の井上尚弥も脚光を浴び始めた。タレントがそろう中でも井岡は「自分しかいない気持ちでやっている」と真顔で言う。試合後も「まだまだ僕がいるボクシング界は、こんなもんじゃない。もっと盛り上げます」とほえた。

 ライトフライ級での初防衛戦に成功し、今後の夢も広がった。2度目の防衛を狙うか、フライ級へ階級を上げて日本人初の無敗3階級制覇へ挑むのか-。一法トレーナーは「バンタムまではやれる」と将来的な5階級制覇の野望も口にする。「目指すところは、まだまだある。複数階級もそう。伝説のボクサーになりたい。ボクシング人生を終えた後に、ファンから井岡一翔は伝説のボクサーだったと言われるような結果を残したい」と井岡。さらに大きな感動と興奮が待つ未知の領域へ、1歩ずつ近づいていく。【木村有三】

 ◆複数階級制覇

 最多は6階級でオスカー・デラホーヤ(米国)とマニー・パッキャオ(フィリピン)の2人。5階級は、シュガー・レイ・レナード、トーマス・ハーンズ、フロイド・メイウェザー(すべて米国)ホルヘ・アルセ(メキシコ)の4人。日本最多は亀田興毅の3階級。井岡は47・62キロのミニマム級からスタートし53・52キロのバンタム級まで制した場合、その体重差は5・9キロになる。