<プロボクシング:日本ライトフライ級タイトルマッチ10回戦>◇25日◇神奈川県座間市・スカイアリーナ座間

 怪物が最速タイで、まずは1本目のベルトをつかんだ。同級1位井上尚弥(20=大橋)が判定ながら、5人目となるプロ4戦目で日本王座に就いた。WBA3位の王者田口良一(26)を相手に得意の左でペースを握り、終始攻勢で3-0の判定勝ち。井上は4連続KOを逃し、悔しさを募らせた。年内に5戦目をこなし、来年にWBA王者井岡一翔(24)の7戦目を上回る日本最速世界王者を狙うことになりそうだ。

 最終回を前に、大橋会長は「倒しにいくな」と指示した。それでも井上はKOを狙いにいった。左を中心に連打を見舞う。ロープにも詰めたがゴングが鳴った。4戦目にして、1度のダウンも奪えず、初めてKOを逃した。史上5人目となる4戦目でのスピード王座。辰吉以来23年ぶりの偉業にも「まだまだ未熟者。辰吉さんの方が何十枚も上手」と反省が口をついた。

 左のリードでペースを取った。ボディーも効かせ、何度もロープへと詰め、コーナーに追い込んだ。打たせないが信条も、あえて接近戦でも打ち合った。「節目なのでKOしたかった」と新王者にもガックリ。「ショック」とまで言った。

 田口はWBA3位と、世界ランカーに3~6ポイント差での完勝だった。大橋会長は「普通なら合格。でも、最後は倒しにいき、びっくり。逆にすごさを感じた。2試合10回はかけがえのない経験」と評価する。今年に入り、体力測定を受けた。得意の左の握力は47・8キロと同世代の平均46キロと変わりなく、数値が劣るものさえあった。それでいてこの快進撃。天性のセンスを練習での努力で磨いてきた。

 2週間前の休日、井上は弟拓真を誘って都内のレジャープールに出掛けた。「ちょっと水に浮きたかった」。拓真が直前のインターハイで、微妙な判定で2度目の優勝を逃した。通常は疲労回復を図り、体を休める時期も、落ち込む弟への気遣い。それ以上に余裕と、まだ20歳のこの若さが井上の起爆剤だ。

 父真吾トレーナーは前向きに捉えた。「集中力がもう1つ。そう甘くない。いっぱい課題を示してくれ、また練習が出来る」。井上も「こんな試合じゃ、世界なんて言ってられない。芯で当てる命中率を磨きたい」。日本最速世界王者の新記録にはまだ1試合余裕がある。年内の世界前哨戦で総仕上げを期す。【河合香】

 ◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。相模原青陵高1年でインターハイ、国体、選抜の3冠。3年時には全日本選手権に国際大会プレジデント杯優勝。アマ通算75勝(48KO)6敗。163センチの右ボクサーファイター。