<プロボクシング:WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇5日◇東京・代々木第2体育館

 WBC世界フライ級王者八重樫東(31=大橋)が、同級1位ローマン・ゴンサレス(27=帝拳、ニカラグア)に敗れ、4度目の防衛に失敗した。39戦無敗で「軽量級最強」と称される怪物に9回2分24秒、レフェリーストップによるTKOで屈した。結果は出せなかったが、壮絶な打ち合いに、会場は熱狂。今後について陣営は、ライトフライ級に下げての3階級制覇なども視野に入れる。負けるたびに強くなってきた男は、まだ戦い続ける。

 ゴンサレスの重たいパンチを何発浴びても、八重樫の心は折れなかった。3回、カウンターの左フックを浴びダウン。それでも、立ち上がると、両拳をごつんと当て、覚悟を決めたように反撃した。「あれしかなかった」。選んだのは真っ向勝負。魂の打ち合いに、超満員の会場の熱はぐんぐんと高まった。

 だが、9回に力尽きた。ゴングと同時に仕掛けた連打の間が空いた瞬間、逆にゴンサレスがラッシュ。最後は連打からの左フックで、コーナーに腰から崩れ落ち、レフェリーが試合を止めた。激闘をたたえるファンに深々と頭を下げると、「意識がある限り戦うつもりだった。打たれても前に行くんだと、毎回が勝負だと思って戦った」と唇をかみしめた。

 自ら求めた大勝負だった。2月、V3戦の発表会見の席上で「強すぎて相手がいないようなので、次勝ったら、僕が挑戦を受けます」とゴンサレスとの試合を公言。多くの選手が対戦を避けてきた元2階級王者を挑戦者に指名した。

 「強い人間と戦いたい」という言葉はもちろん本音。だが、試合を1カ月後に控え、この一戦の意味について問うと、笑みを浮かべながら答えた。「お金ですよ」。そして続けた。「ロマゴンは扉。勝てばファイトマネーも上がるし、海外からビッグマッチの声がかかるかもしれない」。31歳。3人の子供の父として、プロとして、対戦を避ける理由はなかった。試合を終え、控室で次女一永ちゃんを抱くと、涙があふれた。

 勝利はならなかったが、目は前を向いていた。「何回も負けているんでまた頑張ります。何度でも立ち上がりますよ」。負けるたびに立ち上がり、強くなってきた。陣営はライトフライ級に下げ、3階級制覇を目指すことも視野に入れている。八重樫の心は燃え尽きていない。【奥山将志】

 ◆八重樫東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手・北上市生まれ。黒沢尻工3年で総体、拓大2年で国体優勝。大橋ジムから05年3月プロデビュー。06年に東洋太平洋ミニマム級王座獲得。07年の7戦目でWBC世界同級王座挑戦も判定負け。11年にWBA世界同級王座獲得。12年にWBC世界同級王者井岡と統一戦も判定負け。13年に2階級制覇。家族は彩夫人と1男2女。162センチの右ボクサーファイター。