<プロボクシング:WBA世界バンタム級王座決定戦>◇26日◇埼玉・さいたまスーパーアリーナ

 亀田興毅(24=亀田)が日本人初の3階級制覇を達成した。WBA世界バンタム級王座決定戦で、同級5位アレクサンデル・ムニョス(31=ベネズエラ)を相手に12回にダウンを奪うなど判定3-0で完勝。ライトフライ級、フライ級に続いて3階級目の世界王座を手に入れた。戦績は24勝(15KO)1敗。

 攻めなくても逃げ切れた。だが、興毅は倒しに行った。主導権を握って迎えた12回、1分過ぎ。自らを鼓舞して気合を入れ直すと、右ボディーフックでムニョスからダウンを奪った。両手を上げて喜んだのも一瞬で、さらに猛攻。KOまであと1歩まで攻めたが終了のゴングが鳴った。スピードで相手の強打をかわしつつパンチを合わせ続け、判定3-0の完勝で日本人初の3階級制覇達成。「おやじは反対していたけど、こうして結果を出せてひと言、言わせてもらいます。おやじ、どんなもんじゃい!」。興毅の表情が、ようやく喜びに包まれた。

 未体験の重圧に襲われていた。3月まで主戦場だったフライ級から2階級上での世界戦。2・7キロもリミット体重が増えた分、相手のパンチ力も増す。「1発もらったらさんずの川を渡ってるよ」。対策としてスピードとスタミナを強化したが不安もあった。また、今回で達成ならベルト3本中2本は王者に挑戦する形ではない決定戦での獲得となる。しかも相手は1度引退したムニョス。巡り合わせとはいえ、世間では疑問符をつける空気もあった。

 「言う人は言うからな」。言葉とは裏腹に心身はダメージを受けていた。「ほんまにパンクしかけてたな」。自家用車の運転座席を倒し、1人で携帯電話をいじった。それだけで、幸せだった。「車の中におる時間が幸せって、結構やばいな」。

 そんな時、フィリピン合宿に1人だけ先に向かった。つぶれそうな自分を、元に戻すため。恐怖、批判…滞在期間も延長し、すべてを忘れてボクシングに打ち込んだ。「幸せやった。ボクシングやって、それだけ」。試合当日の朝。「決まったときは不安80、自信20やった。でも今日の朝は自信100%やった」。恐怖に打ち勝った興毅に、ムニョスは敵ではなかった。

 歴史に名を刻んだが「もっと強くなる。ビッグ(ネーム)の中に入って、一気に抜かせるように頑張る」。バンタム級は元2階級王者ドネア(フィリピン)や長谷川を倒した3階級王者モンティエル(メキシコ)ら強豪がそろう、厳しい舞台だ。「ここからが第2章」。己の拳で雑音を封じ込めて最強の名にふさわしい男となるべく、新たな夢の扉を開けた。【浜本卓也】