西前頭2枚目の安美錦(36=伊勢ケ浜)が、悪夢を払拭(ふっしょく)した。

 同4枚目の徳勝龍(28=木瀬)を立ち合いから一気に圧倒して押し出し、5勝目を挙げた。

 実は、嫌な記憶とも闘っていた。「今場所、一番嫌なところだった。変に考え込んじゃうと、頭に出てきてしまう。昨日の晩、対戦相手を聞いてから、思い出してしまって…」。

 3月の春場所10日目の徳勝龍戦。8勝1敗と好調で迎えた一番だったが、押し倒されて古傷の右ひざを負傷。翌11日目からの休場を余儀なくされた。当時の診断は、「右前十字靱帯(じんたい)断裂、右内側側副靱帯損傷、右膝関節半月板損傷」。膝の状態は万全でなく、夏場所は休場する可能性もあった。

 この日、土俵に上がる時には、迷う気持ちを消し去った。「最後、しっかり当たっていこうと、踏ん切りがついた」と振り返る。集中して立ち合うと、頭をつけながらのはず押し。気持ちが入った、今場所一番の内容だった。

 「気分的に嫌なのを吹っ切れた。前に出られてよかった」。自宅に戻れば、膝をアイシングする日々。残り3日間、傷だらけの体に無理を強いながらの土俵が続く。