関脇照ノ富士(23=伊勢ケ浜)に、今場所後の大関昇進の可能性が再浮上した。関脇妙義龍(28)を退けて11勝目。直後に1差で追っていた横綱白鵬(30)が大関稀勢の里(28)に敗れ、ついに首位に並んだ。4敗で6人が続き、14日目を終えて1差に8人がひしめくのは1972年(昭47)初場所以来43年ぶりの大混戦。1度は消えたビッグチャンスが巡ってきた。

 照ノ富士は、支度部屋で白鵬が敗れる姿を見届けると一瞬驚き、そして冷静に言った。「自分の壁を越えてから、待ちたい」。直前で白鵬を1差で追う魁聖、勢が敗れても動じず、妙義龍戦は右を差すと左で抱えて一気に押し出し。「なんとか千秋楽までもたせたい気持ちはありました」。11勝目により、白鵬に敗れた11日目で消滅した今場所後の大関昇進ムードが再浮上。歴代3位となる初土俵から25場所のスピード初優勝も見えてきた。

 今場所の大関とりへ、審判部からの要求は「優勝か14勝以上」「白鵬に勝って13勝」と変遷し、取組後には井筒審判副部長(元関脇逆鉾)が「12勝で優勝となれば、大関はグッと近づく」と評価した。北の湖理事長(元横綱)も「先場所13勝で準優勝、今場所も優勝となれば、大関でも横綱になる声が出てくる高い成績」と、12勝で優勝なら昇進の可能性を示唆。年6場所制となった58年以降、大鵬らを抜く史上最速の三役2場所通過も見えてきた。

 13年に間垣部屋から転籍後、稽古量の多さに何度も涙した。毎年6月に行われる合宿でも「2回とも泣いたよ」と笑うが、今場所中も取組前には稽古場に降りて、たっぷり四股を踏んでいる。「やることをやってるから」と答えるのはいつものこと。継続は力なり-。培った力で、劇的な昇進ムードを呼び込んだ。

 千秋楽には、柔道とモンゴル相撲を学んだシーレブ氏(56)を招待した。相撲を始めるきっかけとなった恩師に届ける、1つの集大成となる。「残り1日、思い切って行きます」。波乱の夏場所の最後に、最高の恩返しをする。【桑原亮】

 ◆照ノ富士の大関とり条件 春場所13勝の関脇照ノ富士。初場所が平幕で8勝だったことから、夏場所での大関昇進条件について、審判部の井筒副部長(元関脇逆鉾)は「優勝のようなことがあれば」とし、伊勢ケ浜部長(元横綱旭富士)は「14勝とかそれだけ勝っていけば声が出る可能性はある」と、14勝以上の優勝が1つの基準となった。だが、場所前に北の湖理事長(元横綱)が「重みをつけるには2場所続けて白鵬を倒すこと。(倒せば)13勝でも優勝のめどの数字」と、白鵬撃破の優勝ならば13勝でも可能性があることを示唆。結果、白鵬に敗れて13勝にも届かないが「優勝」で可能性が再浮上した。