せめてもの意地を、土壇場で見せた。左ほおを張られて、左はねじこめない。「厳しく攻められました」と俵まで寄り立てられた。だが、大関稀勢の里(28=田子ノ浦)は最後まであらがった。「思い切っていくしかない」と右からイチかバチかの突き落とし。先に落ちたのは横綱白鵬(30)だった。座布団が舞う。「勝ったのは分かりました」。表情を崩さず、静かに話した。

 12日目から照ノ富士、日馬富士に連敗した。1度は消えた自力優勝が、白鵬も敗れる「運」をつかんで復活しながら、また逃げた。場所前は「休んだらいけない体だと分かった」と、ほぼ毎日体を動かし、体の調子は「いい」と自信を持った。ならば「大事なのはどこになるか」との問いかけに「それが分かったら、いいね」と笑っていた。優勝が見えると動きが硬くなる悪いクセ。消えかかると、また戻る。それが良くも悪くも稀勢の里。この日は良い一面が、土壇場で出た。

 千秋楽。わずかだが優勝の可能性も残る。「思い切ってやるだけでしょ」。多くを語らずに帰っていった。【今村健人】