「湘南の重戦車」が伝統を受け継ぐ-。日本相撲協会は9月30日、両国国技館で九州場所(11月8日初日、福岡国際センター)の番付編成会議を開き、朝弁慶(26=高砂)の新十両昇進が決まった。巨体を生かした突進で、苦節8年あまりで関取の座をゲット。部屋創設の1878年(明11)から関取を輩出し続けている名門部屋に、新風を吹き込む。東龍(玉ノ井)と大道(阿武松)の再十両も決まった。

 自然と周りを和やかなムードに包む、実直な人柄なのだろう。東京・墨田区内の部屋で行われた会見。昇進決定の朗報を朝弁慶は「いやっ…(誰にも)聞いてないっす。たぶん大丈夫だと思います」と話し、爆笑の渦。師匠の高砂親方(元大関朝潮)が「電話あったよ」と助け舟を出し、再び和やかな笑いに包まれた。

 気は優しくて力持ち-。力士の理想像を地でいく、巨体と柔和な顔。それが災いしてか3年半で幕下入りも、以後は5年を要した。転機は3連敗発進の今年初場所で「もう何も考えずに自分の相撲だけ取ろう」と無心になって4連勝。3月の春場所では元ボディービルダーの朝山端が入門。筋トレ法を取り入れ「肩周りなど上半身の筋肉がついた」と肉体改造も成功した。

 気がつけば今年は全て勝ち越し。神奈川県からは22年ぶり、平塚市からは江戸時代の江戸ケ崎以来約200年ぶりの関取誕生と地元は沸いているという。137年も関取輩出を途絶えさせていない名門部屋。34歳のベテラン朝赤龍が唯一の関取だったが「途絶えさせたくない気持ちだった」と責任感を背負った朝弁慶が、隆盛の一翼を担う。

 しこ名は行司の木村朝之助が付けた。実家は13年1月まで平塚市内で中華料理店を経営。目の前のライバル店が何と「弁慶」という名で両親からは「何でそんな名前にしたの?」と叱られたという。その母に新十両昇進を伝え、電話の向こうで泣かせた。部屋にとっても孝行息子になった朝弁慶が、部屋付きの若松親方(元幕内朝乃若)が命名した愛称「湘南の重戦車」そのままに、土俵を突き進む。【渡辺佳彦】

 ◆朝弁慶大吉(あさべんけい・だいきち)1989年(平元)2月12日、神奈川県平塚市生まれ。本名・酒井泰伸。中学までスポーツ歴はなく五領ケ台高時代は柔道で初段。大学進学が決まるも「相撲で強くなって親孝行しなさい」と高砂親方に説得され、卒業後の07年春場所初土俵。朝酒井泰伸から4度改名。西幕下筆頭の秋場所を6勝1敗で昇進決定。190センチ、185キロ。家族は母理恵さん(50)と弟博文さん(17)。