1本あたり手取り3万円をゲットできる懸賞金は、幕内力士の醍醐味(だいごみ)の1つでもある。懸賞1本あたりにかけた取組時間が最も長い「割に合わないで賞」をつかみ取ったのは、佐田の富士(30=境川)だ。

 今年1年間の全取組90番の合計時間は、1738秒3。照ノ富士や逸ノ城はさらに長いが、獲得した懸賞は55本と彼らより少ない。合計取組時間を懸賞本数で割る単純計算で、懸賞1本あたりにかかった時間は31秒61。2位の魁聖(18秒13)、3位の誉富士(16秒71)、最短の横綱白鵬(0秒78)と比べても、佐田の富士が明らかに突出した。

名古屋場所4日目 佐田の富士(右)は阿夢露を寄り切りで破る
名古屋場所4日目 佐田の富士(右)は阿夢露を寄り切りで破る

 この結果に本人は「本当は短い時間で勝負をつけたいんですけど…。必死なんでですね。まあ、長くても勝って、勝ちたいんで。勝ちたい気持ちが強いんで、そうなったんですかねえ」と振り返る。象徴的だったのは、名古屋場所4日目の阿夢露戦。4分38秒4の熱戦の末、寄り切りで退けた一番だ。「最終的に突き起こして左を差して勝った。理想は突いて押すのがいいですけど。残れたら残って、どうにか勝ちにつながるかもしれない。いつか自分の形になるかもしれないんで」と、手応えもつかんでいる。

 我慢の末にゲットした懸賞だけに、使い道も慎重になりたいところ。だが「家族と食事に行ったり、付け人と行ったりですね」と、ちょっぴりぜいたくする程度で済ませている。今年の獲得懸賞本数は昨年の8本から約7倍になり、懐も温まった。銀行口座の管理は佳苗夫人に任せており、小遣いは懸賞しかないが「(夏場所で)遠藤に勝ったときはたくさんもらったんで、奥さんと息子にも1本ずつ、あげました」と、父親の威厳も示した。

 今年は最高位を前頭2枚目まで上げる一方、好不調の波も激しかった。「大負けはダメですね。来年は、とりあえず上位に戻って相撲を取りたい」。白星を重ねるためなら、いくらでも時間をかける-。来年はさらなる記録更新も、あるかもしれない。【桑原亮】


◆懸賞1本あたりにかかった取組時間


力士名時間
佐田の富士31秒61
魁聖18秒13
誉富士16秒71
高安15秒93
豪風14秒8