10年ぶりの日本出身力士の優勝へ、最後の横綱も突破した。ただ1人全勝の大関琴奨菊(31=佐渡ケ嶽)が1敗の横綱日馬富士を突き落としで破り、初日からの連勝を12に伸ばした。1場所で3横綱を倒した大関以下の力士は91年初場所の大関霧島以来25年ぶり。今日13日目は02年初場所でともに初土俵を踏んだ同期生の豊ノ島と対戦する。

 3人目の壁も突破した。結び前にもかかわらず、座布団が舞った。3日連続の横綱3連破に、観客も狂喜乱舞。通算1100回出場の日に、霧島以来、四半世紀ぶりの快挙を達成した。だが、琴奨菊の心にはさざ波すら立たなかった。「どっちかというと、日に日に冷静になっている」。沸き立つ周囲を冷静に見られる。心の強さがにじみ出た。

 この日も、横綱に何もさせなかった。「しっかり当たることだけ。その後の反応は体に任せた」。だから、左を巻き替えたことも、土俵際で瞬時に右から突き落としたことも「必死だから覚えていない」。ガムシャラに力を出し切った。

 場所前から、ある想像をしてきた。それはまさに今。勝ち進んだときに起こり得るあらゆる状況だった。06年初場所の栃東以来となる日本出身力士の優勝を望む声、周囲の期待、ざわめき、過熱する報道。どう対応するか、客観的に自分を眺めてきた。なぜそうしたか。「勝てると思う過程があったから」。

 白鵬を倒した前日、普段より2時間遅く深夜0時に就寝した。高揚したわけではない。下半身を中心にした念入りなマッサージだった。「中途半端な切り替えだと響く」。2時間は優に超えた。それまでの流れを崩すことをいとわなかった。「誰に勝っても『ヨッシャー』だった」姿はない。白鵬戦の勝利を前日のうちに「過去」にできていた。

 部屋は優勝への準備に入り、タイも発注した。だが「まだ3日間ある。自分自身、悔いないように」。心を保てるか。【今村健人】